釣り

ヤマシタ アキヒロ

第1話

  釣り



釣れても釣れなくても

釣りは楽しい


こんなことをいう私は

きっと

下手な釣り人なのであろう


下手の横好き より

好きこそものの上手なれ

信奉する私ではあるが


こと 釣りに関しては

下手の横好き

で充分である


楽しければそれでよい

だれにも文句は言わせない


ところで

何がそんなに楽しいのか

といわれると

じつは自分でもよく分かっていない


どちらかというと

釣りは面倒なことの方が多い


道具を揃えたり

仕掛けを準備したり


日程を調整したり

早寝早起きしたり


泥だらけになりながら

ひたすら歩き回ったり


とくに釣れない日は

なんでこんなことやってるのだろう

自問自答したくなることもある


しかし

それでもやめられないのである


やめられない

には

きっと理由がある


思うにそれは

創作の過程

に似ているからではないか


釣りと創作―――


つまり

下調べをし

材料をそろえ


勘をはたらかせ

現場を歩く


本質のありかを探り

見当をつけ

釣り糸を垂れる


精神を集中し

祈りをこめ


水面下(意識下)の様子に

想像をめぐらす


その過程が

釣りは創作に

じつによく似ているのだ


考えること自体が楽しい


しかも運よく獲物が釣れた日には……


それは何ごとにもかえがたい

無上の喜びなのである


決して

釣れなくともよい

とは言わない


釣れたほうがいい

に決まっている


しかし

たとえ収穫がなくても

チャレンジを続けることが


それが楽しいと思えることが

大袈裟に言えば

人生の喜びなのではないか


下手の横好き―――

大いに結構である


さあ 今日も

あてのない釣り糸を

創造のみずうみに

垂らすとするか


           (了)

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