2階:ゾンビ映画

 だが――土器手さんは、容赦がなかった。

 スタスタとフツーに和美に近づいていき、首すじのあたりをトンと右手の横で突く。


 ゆらっ……。


 一瞬で、和美が目を閉じ、グッタリと倒れこんだ。

 倒れる和美を受け止め、土器手さんがすぐそばの地面に彼女の体を横たえる。


「和美さんは、ここに寝かせておきましょう。大丈夫。すべてが終わってから、ここに戻ってくればいいだけです」


 たしかに。

 和美が気を失ったところで、このゾンビみたいなヤツらがこの子を襲うことはない。

 むしろ逆に、誰ひとりとして、和美のことは目に入っていないようだった。


 こいつらは、黒い植物を体に巻きつけ、オレたちだけを見つめている。

 おそらく、彼らを操る宇宙生物に、黒い植物に操られていない者だけを襲うよう、命令されているのだろう。


「なぁ、おい、古住……」


 道田がとなりで言う。

 オレは横たわる和美を見下ろしながら、ヤツに返した。


「何だ? 道田、今はお前のワケわかんない話を聞いてる場合じゃない」


「そうじゃない。さっき土器手が『私と古住さんは、外宇宙からの宇宙生物と戦っているのです』とかなんとか言ってたが……こういうの、お前、日常なのか?」


「んなわけねぇだろ……」


「オレ、なんだか、今、悪い夢を見てるようで……」


「お前、そろそろ話やめとけ。土器手さんに叱られるぞ」


「古住さん、道田さん、行きますよ!」


 鋭く言って、土器手さんが一気に校舎に向かって走り出す。

 オレも道田も、「は、はい!」と、それについていくしかなかった。


 そこらへんのヤツらをタックルでなぎ倒し、まっすぐに校舎に入る。

 下駄箱を通り過ぎ、階段に向かった。


 先頭を走る土器手さんは、めちゃくちゃ素早いムーヴ。

 女子とは思えない、かなりのスピードだ。

 オレと道田は、彼女についていくだけで、やっとだった。


 階段のまわりには、すでにたくさんのヤツらが集まっている。

 そいつらは、全員、誰もかれもが黒い植物を体に巻きつけていた。


 ボンヤリとした、うつろな表情。

 動きが、薄気味悪いくらい、マジでゆっくりとしている。


 何だ、この状況?

 これじゃあ、まるでゾンビ映画じゃないか!


 だが、1階にいるのは、ほとんどが1、2年生だ。

 彼らはまだ体が小さいので、なんとかかわせる。

 チビッコ・ゾンビたちに囲まれながらも、オレたちはそいつらを突破していった。


 ようやく、階段の前に到着。

 オレたちは、そこから一気に上へと駆け上がる。


 しかし、やっぱ人が多い。

 おまけにこの子たちにケガをさせてはいけないので、めっちゃ気を使う。


「何だよ! 少子化じゃねぇのかよ! めちゃくちゃ人がいるぞ!」


 下級生たちをかき分けながら、道田が叫ぶ。


「そりゃあ、全校生徒集めたら、階段くらい、すぐにいっぱいになるだろ!」


 そう答えるオレに、土器手さんが大きく続けた。


「私が道を開きます! お二人は、くれぐれも生徒たちにケガをさせないように!」


 土器手さんは、美人なうえに、とてもやさしい人だ。

 こんな状況でも、可愛い下級生たちのことを一番に考えている。

 階段をのぼりながら、オレは感心した。


 ンが――。


 土器手さんの、これ、やさしいんだろうか?

 オレたちの目の前で、彼女が左右に手を振り回す。

 さっき和美を気絶させた時と同じように、下級生たちの首すじをトントントンと次々に突いていく。

 

 土器手さんにそうされると、下級生たちは、まるで冗談みたいにその場にコロンと転がっていった。

 眠るように、その場でグッタリと首をたれる。


 こ、これは……ヤバいな……。

 土器手さん、強すぎだろ……。

 彼女とは、絶対にケンカしない方がいい……。

 まったく勝ち目ないぞ、これ……。


 階段に、倒れた下級生たちの山を作り、オレたちはようやく2階に到着する。

 2階は、3年生、4年生がいる場所。


 みんな、トーゼン、1、2年生より、体が大きい。

 おまけに2階には職員室があるので、黒い植物を巻きつけたゾンビたちの中には、先生たちの姿もあった。


「マ、マジかよ! 先生まで、あの黒い植物を体に巻きつけてるぞ!」


 オレが叫ぶと、道田が大きく返してくる。


「これ、ひょっとして、学校全体がすでに乗っ取られてるんじゃないか?」


「何だよ、これ、マジで! SF映画か何かかよ!」


「は? こいつらの姿をよく見ろ! どう考えたって、ゾンビ映画だろうが!」


「ちっくしょう! マジで屋上に行くしかねぇ! 行くぞ、道田!」


「おう!」


 3、4年生がいる2階を突破するのは、わりと簡単だった。

 オレも、道田も、もちろん土器手さんも、1階での戦いで彼らの扱いに慣れはじめていたのだ。


 しかし――問題は、3階だ。

 3階は、5、6年生がいる場所。


 そこにいる生徒たちは、全員がオレたちと似たような体格。

 だから、1階、2階と比べて、少し厄介になる。

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