ヤバい朝

 翌朝。


 校門を通り過ぎると、たくさんの大人たちが学校内にいた。

 走ったり、ケータイで何かを説明している人もいる。

 みんな、めちゃくちゃ必死。


 おまけに、あれって――テレビ局のカメラ?

 えっと、何か取材してんの?


 マジで?

 何があった?


 その人たちを見つめながら、校舎に入り、5年2組に行く。

 外もすごかったが、教室内もドえらい騒ぎだった。

 みんなが大きな声で、色々と話し合っている。


「一体、何があったんだ……」


 自分の席につき、周りの様子をうかがっていると、一人の男が近づいてくる。

 クラスメイトの、道田みちだ さとし


 お調子者で、顔が広く、女子にはあんまモテないけど、男子には人望じんぼうが厚いヤツだ。

 オレもわりと仲が良い。


「んちーっす、古住」


「お、おぉ。おはよう。なぁ、道田。一体何ごとだ? みんな、なんでこんな大騒ぎしてる?」


「あぁ。下級生がな、行方不明になったみたいだぞ」


「ゆ、行方不明?」


「そそそ。たぶん、アレだ。誘拐だな、うん」


「誘拐って……一体、誰が?」


「それは、まだわからない。ただオレが聞いた情報によると、その子が行方不明になったのは、昨日の夕方だ。昨日の夕方から、その子は家に帰っていない」


「その子って……つまり、女子なのか?」


「あぁ。みたいだぞ」


「昨日の夕方からってことは――誘拐されたのは、昨日の放課後、下校中って感じか?」


「おそらく、そうだろうな。んま、オレら小学生は、色々と注意しなきゃいけないご時世ってこった。ったく、めんどくせぇ……」


 どこかのオジサンみたいに言って、道田がオレから立ち去っていく。


「碧くん!」


 道田と入れ替わるようにして、和美がいきなり5年2組に入ってきた。

 肩でゼイゼイと息をし、険しい表情をオレに向けてくる。


「どうした、和美? なんでそんなに慌ててる?」


「そ、そりゃ慌てるよ、碧くん!」


「おはようございます、古住さん、和美さん」


 続いて、土器手さんがオレたちの前に現れた。

 土器手さんは、やはりオレと同じように、和美を見て首をかしげる。


「どうされたんですか、和美さん? 今朝は、アチコチが騒がしいようですが」


「み、みくさん! あ、あの、あのね! 大変なことが起きたの!」


「大変なこと?」


 和美が、ゴクリとツバを飲み込む。


「さっき聞いたんだ! 昨日、ウチの学校の女子が行方不明になった!」


「それは、さっきオレも聞いたよ。ヤバい話だよな。和美、今日からオレと登下校しよう。なんかめちゃくちゃお前が心配になってきたよ」


「そうじゃない! そうじゃないんだよ、碧くん!」


「そうじゃない?」


「行方不明になった子――どうやら、みちるちゃんみたい!」


「え……」


 その瞬間、オレの頭の中に、昨日の放課後の映像が浮かび上がる。


 マリーゴールドが並ぶ、校内の花壇。

 丁寧に雑草を抜き取る、小さな後ろ姿。

 オレたちを振り返ったみちるちゃんが、とても無邪気なほほ笑みを浮かべる。

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