悪いニュース

 翌朝――教室に入ると、土器手さんはすでに自分の席に座っていた。

 今日もやっぱり全身真っ黒なファッション。


 土器手さん、一体どんだけ黒が好きなんだろう?

 ま、オシャレですけど……。


「おはようございます、古住さん」


 オレの姿を見つけると、土器手さんがほほ笑む。

 ヤバい。

 やっぱ今日も、ドン引きするくらい美人。


「おはようございます、土器手さん」


 だけどオレたちは、一日たっても、やっぱりお互いに敬語だ。


「古住さん。ゆうべはよく眠れましたか?」


「いえ、まぁ、あまり……」


「そうですか。昨日は色々ありましたものね……」


「あの、土器手さん」


「はい」


「良いニュースと、悪いニュースがあります。どちらを先に聞きたいですか?」


「今日という一日は、始まったばかりです。気分良くスタートしたいですね。それでは、良いニュースからお願いします」


「昨日、オレたちが割った2階の窓ガラスですけど――さっき見たら元通りになってました。つまり、弁償せずに済みます」


「あぁ。あれはクモ人間が作った裏の世界での出来事です。こちらの世界には、まったく影響はありませんよ」


「あぁ、そうなんですね。じゃあ、まぁ、良かったです」


「それで? 悪いニュースというのは?」


「それをお話しする前に――土器手さん、オレ、実は仲間がいるんですよ。幼なじみって言うか、妹みたいなもんなんですけど」


「あぁ。新崎 和美さんですか?」


「え……あのメガネを知ってるんですか?」


「はい。ついさっき、校門でお会いしました。彼女、民俗学みんぞくがくを勉強してらっしゃるのでしょう? お若いのにステキです」


「碧くん! みっくさん! 遊びに来たよ!」


 そう言って、いきなり和美が後ろからおぶさってくる。

 その勢いで、オレは思わず、前によろけた。


「ちょ、な、何だ、和美? なんでお前が、5年の教室に?」


「いいじゃん、いいじゃん。私たち、もう仲間なんだからさ」


「な、仲間ぁ?」


「あれ? みくさんから聞いてない?」


 オレから離れて、和美が土器手さんのとなりに並ぶ。

 って言うか、和美。

 お前、なんで、いきなり土器手さんを『みくさん』呼び?


「みくさんはね、今日から私たちの仲間になったんだ。こんなスーパー美少女が仲間になってくれるなんて、私、めちゃくちゃうれしいよ!」


「仲間って、何の仲間? ひょっとして、鶯岬民俗学研究会?」


「そ! さっき校門のとこでお話しをしたら、みくさん、鶯岬町の歴史にめっちゃ詳しかったんだ! だから協力をお願いした!」


 うれしそうに、和美が土器手さんに抱きつく。

 土器手さんはイヤがる感じもなく、ネコにそうするように、和美の頭を撫でていた。

 そのまま、オレに続ける。


「それで、古住さん。悪いニュースというのは、何なのですか?」


「あぁ、はい。それなんですけど――」


 オレは、土器手さんに真剣な眼差しを向けた。


「あれから、和美がくれた青い隕石の映像を、何度も何度も確認してみたんです。そしたら――新たなる事実がわかりました」


「新たなる事実?」


「はい。この町に落ちてきた隕石は……1つではありません。燃えつきる瞬間、3つに分かれています。つまり――あと2つ、残ってるんです」


 土器手さんの表情が、一瞬にして天女の顔つきになった。

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