なぜか敬語で話してる

 その日――オレは結局、土器手さんと話すことができなかった。

 休憩時間の彼女は、やっぱりみんなに大人気だったからだ。

 クラスメイトや他のクラスのヤツらが、ひっきりなしに彼女に話しかけてくる。

 だからオレが話しかける隙なんか、まったく、ぜんぜん、なかった。


 まぁ、しかし……それは、オレにとって、それほど悪いことじゃない。

 美人と話すのは、なんか苦手。

『オレなんかに話しかけられたら、きっとこの人、迷惑なんじゃないかな?』

 そういうことを、つい考えてしまう。


 おまけに土器手さんは、美人は美人でも、見たことがないくらい神レベルの美人。

 オレには、マジで無理。


 そんなことを考えているうちに、あっという間に放課後になった。


 終わりの会が終了すると、オレはランドセルから、和美にもらった資料を取り出す。

 『目を通しといて』って言われたけど、今日はそれどころじゃない一日だった。

 パラパラとページをめくる。


 ――なるほど。

 読めない漢字はスッ飛ばしたけど、なんとなくわかった。


 今までぜんぜん知らなかったが、この鶯岬町には、どうやら昔から隕石がたくさん落っこちてくるらしい。

 もちろん、サイズは町全体を吹っ飛ばすような大きな物ではない。


 ほとんどが5キロから10キロくらいの重さ。

 漬物つけものいしにちょうど良い、って感じだろうか?


 記録によると、これまでに落ちた場所は、田んぼとか畑。

 被害は、地面にポッカリと小さな穴が開く程度。

 なんか、しょぼい。

 たった一度だけ、民家の屋根に落っこちてるけど、ケガ人はいなかったみたい。


 そしてオレは――その記録を見つけ、ページをめくる手を止めた。


 大昔、まだこのあたりにおさむらいさんがいた頃の記録。

 その文字の横には、なんかめちゃくちゃレトロな、ダッサいイラストがついている。

 山に向かって、大きな火の玉が落っこちてるイラストだ。


 その時代は、わりと頻繁ひんぱんに、火球かきゅうが落ちていたらしい。

 火球というのは、つまり隕石のことだろう。


 なるほど……これは、アレだな……なかなか重要な記録だな……。

 そんな大昔から、この鶯岬町には隕石が落ちてきてるんだ……。


 ページをめくる。


「んんん?」


 次のページを見た瞬間、オレは大きく目を見開いた。

 こ、これは……。

 な、なるほど……和美の狙いは、これか……。


 そのページにも、イラストがついていた。

 なんだかモンスター系の、めちゃくちゃキモいヤツの絵がたくさん描かれている。


 な、何だ、こりゃあ?

 これ、怪獣大百科みたいなやつ?

 って言うか、なんでこんなのが郷土史に?


 その横に書かれた文字を読む。

 

『火球が落ちた場所には――『もの』が出現することがある』


 物の怪って言うのは、つまり、今で言う妖怪、あるいはモンスターのことだろう。


「隕石が落ちた場所の近くに、モンスターが現れる……って、これ、つまり、隕石じゃなくてUFOってこと? ってことは、モンスターじゃなくて、宇宙人……」


「何を読んでらっしゃるのですか、古住さん?」


 突然、誰かがそう声をかけてくる。

 「ん?」と、オレはそちらを振り返った。


 オレのすぐ近くに立った、とんでもない美少女。

 な、何なんだ、この人は……。

 何度見ても、めっちゃ美しい……。

 土器手 みく さんだった。


「あ、いや、どうも、土器手さん。こ、これですね、その、鶯岬町の郷土史です。郷土史っていうのは、その、何と言いますか、町の歴史が書かれた本のことです」


「あぁ、そうなんですね。古住さんは、この町の歴史に興味がおありなんですか?」


「は、はぁ、まぁ、って言うか、先週、この学校の裏山に隕石が落ちてきたんですよ。で、その、昔も落ちてたのかなぁ? って、興味がありまして――」


「なるほど。勉強熱心な方なのですね」


「いえ、そんな。で、この資料によりますと、この町にはどうやら昔から隕石がよく落っこちてくるみたいなんです」


「まぁ。そうなのですか」


「はい。ですから土器手さんも、隕石には、くれぐれもお気をつけください」


「そうですね。頭に当たったら、大変ですものね。ご心配、ありがとうございます」


「いえいえ」


「ところで古住さん――」


「はい」


「そちら、とても古い記録のようですが……一体どちらで?」


「あぁ。これは、その、オレの友人がまとめてくれたものです。図書室で見つけたって言ってました」


「まぁ、図書室で? 素晴らしいですね。こちらの図書室には、そのような貴重な資料がたくさんあるのですか?」


「はい。あの、この鶯岬小学校の図書室には、めちゃくちゃ古い本がいっぱいあるんですよ。昭和の時代から、ずっと大切に保管されてるらしくって」


「あの、すいません、古住さん」


「はい。何でしょう?」


「申しわけありませんが、その図書室に案内していただけませんか? 場所を知っておきたいのです」


「あぁ、はい。まぁ、そうですよね。図書室は非常に重要な場所です。わかりました。ご案内しましょう」


 ランドセルを背負い、オレは土器手さんといっしょに教室を出る。

 そして、ふと思った。


 何だろう?

 オレも土器手さんも、さっきからずっと、なぜか敬語だ。

 同じ年で、クラスメイトなのに。


 こういうのって、なんか居心地悪いなぁ……。

 もっと、こぉ、フツーに話した方がいいんだろうか?


 いや、でも、それもどうなのか?

 土器手さんは美人だから、あんまり馴れ馴れしくするのも、なんだか失礼な気がする。

 『こいつ、私を狙ってるの?』とか、ワケわかんないことを思われてもイヤだし……。

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