第37話 清楚系ギャルがホラーが怖いなんてありえない

 秋月と準備室へ戻ったあと冬島と桜ヶ丘は何事もなかったかのように、オシャレや最近あった面白い動画を仲良く見ていた。


 秋月と目を合わせて苦笑いする。

 心配しすぎだったみたいだ。


 その日の帰り道、桜ヶ丘と離れた後二人きりで冬島と一緒に帰っていた。家の方向も一緒だし他の奴らに見られたところで不自然ではない。


「うちとのデート本当にいい? 嫌じゃない?」

「なんだよ急に……」

「別に、どうなのかなって聞いてみただけ」

「別に嫌じゃないよ、むしろありがとうって感じ」


 冬島はうちのクラス、いや学校でも美人と評判の高い女子だ。

 顔も整っているし、スタイルも良い。そんな女の子とデートができるなんて、陰キャオタク男子の俺には夢のような話。


「ありがとうって……まぁ嫌じゃないならよかったけど」

「でも俺デートとかしたことないから、エスコートとかそういうのは」

「大丈夫、そういうところは期待してないから」

「は、はい……」


 その言葉に俺は悲しくなってしまった。

 自分の女の子との絡みが本当になかった証拠を提示されたみたいだった。


「まぁ見たい映画とかあったら、事前に教えてくれれば助かる」

「あ、おっけー。冬島は見たい映画とかあるのか?」

「いや、映画はなんでもいいけど、カフェとかは行きたいかも」

「じゃあ映画の方は俺に任せてほしい」


 俺が何の映画を観るのかを担当して、冬島がどこの場所のカフェに行くのかを調べることになった。


「じゃあうちはこっちだから」

「おう、じゃあな」

「またね」


 冬島のその言葉が新鮮でふとかわいいと思ってしまう。


 今日は冬島とのデートだ。

 最低限の身だしなみをしていこうとは思う。


 寝癖を直し、母さんに無理矢理交わされた少しお高いシャツを着て待ち合わせ場所に向かう。


 時間には余裕をもって出たため遅刻はないのだが、いつもはパーカやT-シャツなので、落ち着かない。


 映画館が併設されているビルの一階の入り口の前で待とうと向かうと、かなりの人の目を集めている女の子がいた。それが俺の今日待ち合わせしている女の子だった。


 ぴちっとしたジーパンは体のラインが出て、足が長くすらっと見える。

 白のブラウスは冬島の清潔感と清楚要素が強くなるため、とても似合っている。


「お、早いじゃん」

「そりゃあな、冬島こそ早いな」

「まぁうちから誘ったし、遅れるわけにもいかないしね」

「真面目だな」


 俺がフッと笑いながら言うと、眉を寄せて目を細めてくる。

 別に馬鹿にしたわけじゃないのだが……。


「それじゃあ――――って、何ジロジロ見てるのよ」

「いや、普段と違って雰囲気が違うっていうか、似合ってるって感じて」

「え、あ、ありがと……」

「いや、いいよ。事実だから」


 俺がそう言うと冬島はまた眉を寄せて目を細めてくる。


(だから馬鹿にしたわけじゃないって……)


「それじゃあ、いこっか」

「まずは映画でいいんだよな?」

「うん、この映画でしょ? 席の方はもうとっておいたから」

「仕事が早いな」


 昨日のうちに冬島には見たい映画を送っておいたので、それを確認してインターネットで席はもう予約したとかなんとか。


 俺はそのことに感心した。

 これがデキル女と言われている冬島美奈の名は伊達じゃないなと。


 こういうところがかっこいいと思う男子もいるらしく、男子だけでなく女子からも告白されてるとか。


「別に観る前にごたごたしたくないだけ」

「あ、そうですか」

「うん、ポップコーンとかは食べる派?」

「俺はドリンクだけでいい派かな?」


 映画に来たら小さい頃はポップコーンとか食べていたけど、別に今はドリンクだけでいいと思ってしまう。


「うちもドリンクだけでいい派」

「じゃあドリンクだけ買うか、なにがいい?」

「いいよ、自分で買うから」

「一緒に買った方が早いし、店員さんも楽だろ?」


 俺の提案に冬島は納得してくれた。

 奢るくらいのことはしなくては恰好がつかない! そう思ってたのが見え見えだったのか、冬島が電子マネーで払って、俺があとから現金を渡した。


「変な気は使わなくていいから」

「ちょっとくらいは格好つけさせてくれよ」

「やだ」

「なんで」

「むり」


 冬島はそう言って俺に恰好をつけさせることを許してはくれなかった。


「同じ学生なんだし、別に奢ろうとしなくて良いから」

「わ、悪い……」

「謝らなくていいでしょ」

「そっか」


(やべぇ……俺より全然かっこよくね?)


 そう感じてしまう俺だった。

 振る舞いから言葉まですべてが格好良く見えてきてしまった。


「そういえば、この映画って……」

「あぁ、この映画は


 俺がそう言うと、冬島はビクッと身体を震わせる。

 ロボットみたいな動きでぎこちなくなっている。


「ど、どうしたんだ?」

「ほ、ホラーな、なんてこ、怖くなんてないから……」


 その言葉と表情に俺は確信した。

 冬島はホラーが苦手なんだと。


「やめるか?」

「せっかくチケットも買ったし気を遣わないで」

「わかった、けど本当にやばかったら言えよ?」


 俺がそう言うと、冬島はコクコクと首を小刻みに縦に振る。

 冬島とのデートはまだ始まったばかりだ。

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