第36話 秋月の豊満な山の間に顔を埋めるなんて存在しない!
「秋月は何飲むんだ?」
自販機の目の前まで来て唐突にそんな質問をする。
秋月は顎に手を置きながら悩んでいる。
「やっぱりイチゴみるくかね」
「イチゴミルクかぁ、甘すぎないか?」
「甘すぎるくらいがいいんだよ」
「そうかぁ? 俺はどっちかというとバナナオレの方が好きだな」
そう言うと秋月は「それはわかりみが深いね」とはにかむ。
俺はどっちかというと甘いのは苦手ではないが、めちゃくちゃ好むわけではない。
その点秋月は甘党なのだろう。
イチゴミルクを一日多いときで4本飲むことがあるらしい。
でも一番好きなのは豆乳とか牛乳らしい。
豆乳は胸を大きくすると聞いたことがあるが、これはデマではないのかもしれない。
秋月のあの二人よりも大きい胸を見ると、そう思ってしまう。
「あ~、幸也くん? 今エッチなこと考えてたでしょ」
「いや、そ、そんなことは……」
「女の子はわかるんだからね? そういうこと」
「……ごめんなさい」
俺は誤魔化せるとは思えなかったため、しっかりと謝る。
それを見た秋月はふふふっと笑っていた。
「しっかし、あの二人は仲がいいのか悪いのかわからなくなる時があるな」
「え~? あの二人はとっても仲良しだよ」
「今日は?」
「喧嘩というほどじゃないですよ、雰囲気はちょっと重めだったけど」
喧嘩するほど仲がいい。あの二人をみているとこの言葉が思い浮かぶ。実際に冬島は桜ヶ丘と秋月のことが大好きだから、嫌いになるという事はないだろう。
「まぁたまにの衝突なんて誰にでもあるからな」
「そうですよ、それをわかってるから見守るの」
「お母さんか」
「そこはお姉ちゃんと言ってください! 実際にお姉ちゃんなんですからっ!」
秋月は頬を膨らませてムッとした表情をする。
お母さんと言われたのが引っかかったみたいだ。
「秋月は包容力が段違いでありそうだもんな……」
「包容力ですか……? 考えたことはなかったですけどあると思う」
「まぁ……あるだろうな」
実際にお姉ちゃんだからという理由だけでなく、秋月の性格もそうだし、まぁ……なにがとは言わないけど大きいし。
「幸也くん頭ちょっと下げて?」
「頭? どうしてだ?」
「いいからっ、誰も来ていないうちに早くしてっ」
「お、おう……」
困惑しながらも秋月の要求に素直に応じる。
すると、頭を小さな手で撫でられる。その手つきはとても優しく、安心する力があった。
「幸也くんはいつも頑張ってるよ、私たちは本当に感謝してるんだよ~」
「ちょ、ちょっと――――なにしてるんだよ」
「ふふふっ、恥ずかしがらないのっ!」
「うわ、ちょ――――んぶっ」
俺が頭を上げてねげようとするのがバレて、頭を大きな柔らかいお山の間に顔を挟まれると同時にとてもいい香りが鼻を抜けていく。
――――落ち着く。こんな枕があったらいつでもどこでも安眠できるだろうに……商品は爆売れだろうなと学校の中だというのに変なことを考えるくらい、余裕がなかった。
ここを見られたりしたら、もう弁解の余地もないだろう。
「――――はいっ! おしまいっ」
「うぇ……? あ、あぁ」
「あれ? もっとぎゅーが欲しかったかな?」
「う、うるさい……」
秋月がニヤリと口許をゆるませて俺のことを下から覗き込んでくるので、そっぽ向いて目を合わせないようにするのが精一杯だった。
恥ずかしくて顔が熱くなるのが分かる。
そんなとき、秋月のスマホがブーと鳴る。
「あ、サリーちゃんからカフェオレってきた」
「あいつ人をパシリみたいに」
「私たちが来てるからついでにってことだよ」
そう言って、秋月は小銭を入れてカフェオレのボタンを押そうとするが、自販機の一番上に並んであるので、一生懸命背伸びをしている。
バランスをつま先で頑張って取っているため、ぷるぷると震えている。
その姿は先ほどのお姉ちゃんとは違って、妹みたいになっていた。
「いいよ、俺が押すよ」
「あっ、ありがとう……で、でもあとちょっとで押せたんだからね?!」
「はいはい、そうかそうか」
「なにその小さい子を見るみたいな目は!」
ぷくっと頬を膨らませて俺のことを睨んでくる。
その姿がより一層秋月の妹要素を強くしている。
ふと考える、お姉ちゃんになってもらって甘やかされたり叱られたりするのもいいが、秋月が妹で甘やかしたり、叱ったりするのもいいな――――と。
(――――って、俺はなんてことを……でも考えるだけなら自由だ)
そんな世界線があったっていいじゃない。
「ゆ~き~や~く~ん? まぁた変な事考えてる?」
「いや、変なことは変なんだけど……」
「またエッチな事?!」
「ち、ちがうよっ!」
そう言って秋月は自分の身体を両手で隠すような
「ち、ちがうわっ!」
「違うの?」
「俺はただ、姉がいたらどうなってたんだろうなって」
「幸也くんは一人っ子だったよね?」
秋月がお姉ちゃんとは言わなかった。
別に言うほどのことでもないと感じたからだ。
「一人っ子だから兄弟とかそういうのはわからん」
「じゃあ、いつでもお姉ちゃんしてあげるよ~」
「――――ッ! い、いやいいよ……同級生だし」
「え~? でも今一瞬迷ったよね?」
たしかに迷った、こんなに美味しい話あるのかと――――だがまだ理性とプライドが残っていたみたいだ。それがいいのか悪いのかはまだ俺にはわからない。
「まぁいいや、ミーちゃんにはお水買ったから早く行こ?」
「そ、そうだな……」
秋月と一緒だとなんか調子が狂うなと強く感じた。
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