第35話 ギャルの予定が空いているなんて存在しない

「ちょ、ちょっと待ったぁ! な、なに急に言ってるのさ」

「何が?」

「だからその……で、デートとか」

「いいじゃん、これはご褒美なんでしょ? できることならするって言ってたし」


 冬島が真顔で言うと桜ヶ丘も何も言えなかったのか、唇を噛み締めるようにグッと黙り込む。


「でもそのデートって俺何したらいいかわからないぞ」

「いいのいいの、ただ二人きりで映画でも見て喫茶店でお茶いしようよ」

「そんなもんなのか?」

「そんなもんなの」


 デートなんてものしたことがないので何をするのかいまいちピンと来ていないのだが、冬島がそうと言うならきっとそうなんだ。


「それともうちとデートは嫌?」

「いやいやいや! 冬島みたいな美人と行けるのは光栄でございます」

「なんか茶化してるみたい――――本当に思ってる?」

「ほ、ホントだって!」


 冬島の疑念を解消するかのように、俺は弁明する。

 その言葉に「まぁいいわ」と渋々納得された。


 しかし、俺がデートかぁ、産まれてきて初めてのデートが冬島になるとは……人生は何があるかわからないとはつまりこのこと。


「てか、サリーだってうちらに抜け駆けでコイツとデートしてるじゃん」

「あ、あれは……勉強会だからノーカンだし」

「ノーカンって……まぁコイツもデートだと思ってないしノーカンかもね」

「でしょ? だからノーカン」


 冬島が呆れたようの口調と目線を俺に向けてくる。

 桜ヶ丘と一緒に二人で勉強会をしたときの話だ。冬島はそれを今デートと話した。


 あれってデートだったの? てっきり放課後の延長線上だと考えていた俺には何も考えていなかった。


 ――――たしかに? 二人きりっていうのはちょっとは意識したというか心配したけど、桜ヶ丘に男として見ていないと思われていた時点でデートなんて文字は消え去っていた。


(てことは、ノーカンにしなかったら桜ヶ丘が初めての相手か?)


「じゃあ今度のユキの家に遊びに行くのはデートってことにするから、二人きりね!」

「え、お、おう……」

「よし」

「なんか、二人とも気迫がすごいようで……」


 この二人の目に見えないバチバチはたまに感じるくらいだったが、今日は特段に凄いため俺は早々に秋月という安置の近くに移動する。


 秋月もこの光景にまたかという表情をする。


「二人とも大変ねぇ~」

「だよな……」

「幸也くんが原因って気づいてる?」

「いや、それはわかるけど俺みたいな奴に大げさすぎるとは思うよ」


 桜ヶ丘も冬島もどちらも容姿が整っていて、デートとかこんな誘いを受けたら飛び跳ねる男子が大多数を占めるだろう。


 たぶん勘違いをする男も出てくる。しかしその点をわきまえているつもりではある。


 冬島や桜ヶ丘みたいなスクールカーストのトップにいるような奴らと俺がそんな関係になれるわけがない。友達になれただけでも奇跡に近い。


「ま、サリーは置いといて。アンタは日程とか空けれる日あったら教えてくれない? それにうちが合わせるから」

「カレンダーなんて見なくてもわかる、休日なんて暇の一言に限る」

「それでもアンタ高校生なわけ?」

「うっ――――その言葉は胸にくるぞ」


 確かに高校生なんて青春を謳歌できる最後の学生生活だ。

 青春……この言葉と隣り合わせなのもあと1年半くらいで短いと感じる。


 しかし不思議と焦りなんかはなく、まだ時間があると思っているのか、それとも諦めているのか――――たぶん両方だ。


「じゃああとで土日どっちか決めたら送るから」

「おう、待ってる」

「もし予定とか入ったら言ってね」

「流石に最初に約束してた方を優先するよ」


 約束は最初にした人が優先だ。

 たしかに外せない用事とかはあったりするかもしれないが、そんなことは滅多にない。


 しかし冬島が不安そうな顔でそう言ったのが俺はびっくりだった。

 いつも通りに「先に約束してる方優先だろうが」とかギラついた目で言われるのかと思った。


「もし本当に優先しなきゃいけない方が入ったら連絡ちょうだい?」

「だから大丈夫――――」

「頂戴」

「――――はい」


 言葉の圧に俺は返事をすることしかできなかった。

 なぜか「はい」以外の言葉が口から」出なかった。


「ミーばっかりずるいよ! ユキアタシとも決めよ!」

「今決めるのか?」

「うんっ! 決めたいっ」

「それじゃあ……」


 桜ヶ丘は食い気味にそう言ってくる。

 カレンダーを見ながら、平日でもいいんじゃないかと考えた。


「平日で勉強会がない日でもいいんじゃないか?」

「ん、それでもいいよー!」

「じゃあそれで」

「おっけー」


 こちらもすんなり決まってくれたので良かった。

 そう思っていたのだが――――冬島が口を開く。


「その日サリー用事なかったっけ?」

「え? あっ、そうだった――――じゃあ次の日に!」

「その日は女子のみんなでカラオケでしょ?」

「ぐぬぬぅ……今月はもしかして予定いっぱいなの?」


 俺に聞かれても困る。

 反応に困ったため、飲み物を買うという理由で準備室を出る。


「あ、私も行くよ~」

「買いたい物言ってくれれば一緒に買ってくるけど?」

「いいのいいのっ、一緒に行こ?」

「秋月がそれでいいなら……」


 準備室を出て秋月と一緒にジュースを買いにく。

 秋月とは絡んでいるようであまり絡んでいないなと思った。


(ここは男の俺が会話の話題を出した方が良いのか……)


 そうこう悩んでいるうちに自販機の目の前まで来ていた。

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