第34話 オタクにデートのお誘いなんて存在しない!

 俺たちは何日かぶりの準備室での勉強会を開くことになった。まぁ今回は勉強をするというよりもテストの結果がどうだったのかとか、目標を達成できたのかという事を確認する。


「それじゃあ一人ずついくか?」

「はいはい! アタシからね!」

「元気がいいな……その様子だと結構いい感じか?」

「結構どころじゃないよ!」


 そう言って、テストの表を見せてくる。

 赤点が30点ぼーだで設定されているため、30点を取れば赤点回避で合格となる。


 桜ヶ丘が見せてきた表には赤点どころか、30点ギリギリの点数もなかった。低くても40点くらいの結果だった。


「凄い伸びだな!」

「へへんっ! アタシもやればこんなもんなのよ!」

「これは凄いとしか言いようがないな……」

「おぉ~、にそこまで褒めてもらえるとは」


 桜ヶ丘はサラッと俺のことをユキとあだ名で呼んでいるが、実は全く慣れていない。


 前よりも好かれていることは嫌われているというよりもいいことだが、慣れてなさ過ぎて心臓に悪い。


「それじゃあご褒美はなにか、してほしいこととかあるのか?」

「あるよー! またユキの手料理が食べたい!」

「それがいいなら、それでいいけど」

「マジ!? やったぁ、日程とか開けといてよねー」


 桜ヶ丘との会話で何か引っかかることがあるのか冬島と秋月はこっちをジッと見つめてくる。


 そこで俺は理解する。

 まだこの二人は桜ヶ丘が俺の家に来たことや、遊んだことがあることを知らないんということに。


「サリーちゃんは幸也くんのお家に行ったことがあるの?」

「うん! ユキの料理めっちゃ美味しいんだから!」

「あのさ……二人で家で遊んだってこと?」

「…………あ、えっとその、今のナシ」


 桜ヶ丘もそこでようやく気付いたのか、恥ずかしそうに顔を両手で隠している。


「そんな楽しそうなことを二人で内緒にしないでくださいよー、ミーちゃんもそう思うよね?」

「うちはただ、アンタが変なことしてないかだけ確認したい」

「し、してないですよっ! こ、これに関して本当に……」

「ふぅーん? じゃあ今度確認しようか、ね? アッキー」


 冬島はそう言って秋月に話題を振る。

 秋月はものすごい笑顔で賛成と頷いている。


 そして、俺の意見は無いまま三人が家に来ることが決まった。

 ――――だが、桜ヶ丘だけなぜか少しショックを受けているように思えた。


 俺と目が合うと、すぐにいつものスマイルに戻り表情も柔らかくなる。


「じゃあ次は秋月いくか」

「はーい、私はですねーこれです!」


 続いて秋月のテストを見る。

 こちらも赤点はないが、ギリギリで合格しているものもある。


 逆に高得点や平均点を超えてるテストもある。


「すごいな! このテストなんて先生が難しいって言ってたのに」

「勘と山が当たったんですよ」

「それじゃあご褒美はどうする?」

「えっとですね……」


 秋月はそう言うと、ウルっとした少しタレ気味な瞳を真っすぐと向けて口を開く。


「このまま、また勉強会を続けてほしいんです」

「勉強会を?」

「はいっ、私結構楽しいなって感じてて、それにみんなで勉強した方が性に合ってるなって思ったんです」

「なるほどな……まぁそのお願いは考えておくよ」


 秋月は俺の言葉を聞くとニコッと笑って「お願いしますねっ」と一言だけだった。


 それ以上も以下も望まないという形のお願いだった。

 しかしこういうシンプルなお願いというか、やってよかったと少しでも思ってもらえたんなら、俺も嬉しい。


「え、勉強会ってこれからも続くんじゃないの?」


 桜ヶ丘が疑問に思ったのか質問してきた。


「この教室が使えるのも露木先生が担当してるからだし、お前たちの成績が上がったら、別にやらなくてもいいんじゃないか?」

「え……マジ?」

「まぁ放課後ここに集まらなくても勉強はできるしな」


 俺がそう言うと、準備室の空気が重くなる。

 そこで冬島が口を開く。


「それはうちも困るんだけど……」

「お前までもか」

「なに別にいいでしょ」

「いや、いいけど……意外だなって思ってさ」


 俺がそう言うと、机の下で俺の足を思い切り踏みつけてくる。

 その痛みが一瞬で身体を駆け巡る。


「――――ってぇな!」

「ふんっ、生意気」

「なんだとこの小娘」

「小娘? 結構スタイルいいし、おっぱいも大きい方だと思うんですけど」


 なぜか冬島はムキになって自分のスタイルを引き合いに出してくる。

 しかし否定できないほど、スタイルがいいのは確かなので俺は何も言えなかった。


(クソ! ムカつくから身体を舐めまわすようにみてやろうか!? 悪役のデブキャラみたいによ!)


 そうは思ったものの、嫌われたときの代償の方が大きいと感じ、心の中だけで留めておくことにした。


「んじゃあ、次は冬島だけど……」

「赤点はない、それに170番以内だったよ順位」

「たしかに……てか、この前の順位からめっちゃ上がってるな」

「頑張ったもん、誰かさんのお陰でね」


 冬島はそう言って、俺のことを見てくる。


「じゃあ一応聞くけどご褒美とかは」

「なんでもいいんだよね?」

「まぁ俺にできることなら」

「じゃあ……ね」


 俺は別にいらないとか、近寄るなとかそういう言葉が出てくると思ったが全く違く逆に心臓をドキッとさせられるお願いだった。


「うちとデートして」

「…………は?」


 正直に俺はこのとき何も考えられなかった。

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