第32話 陰キャオタクの俺がギャルと仲良くなるなんて存在しない!

「オタ……ヤバそうだったら病院行ってね?」

「え? あぁ……いいよ、もう痛くないし、口の中切ったとかじゃないから」

「でも他人の親に叩かれるって、問題だよ」

「桜ヶ丘に迷惑がかかることをしたいわけじゃないんだ」


 桜ヶ丘は俺の胸にポスンと頭をつけてくる。

 長い髪の毛と目立つ金髪から、いい香りがする。


「じゃあもうこんなことはしないこと、わかった?」

「はい……ごめんなさい」

「よし、わかったならもう謝らなくていいよ」

「ありがとう」


 俺お礼を言うと「それを言うのは私の方だよ」とけらっと笑っていた。


「桜ヶ丘……」

「大丈夫だよ! しっかりとパパと話してくるね」

「おう……」


 とても心配だった、そんな俺の考えていることを感じ取ったのか、桜ヶ丘はぎゅっと抱き着いてくる。


 彼女が背中に手を回し、圧迫感がある。それが妙に心地良いと感じていた。


「それじゃあ行ってくんねっ!」

「あぁ、行ってらっしゃい……」

「また明日! 学校でねっ!」

「学校で」


 そう言って桜ヶ丘の家の前で別れる。

 まだ不安や心配があったが、これ以上していたらそれこそ迷惑になると考え俺は自分の家へ帰る。


 その日は一日中、桜ヶ丘のことを考えていた。


「あっ! 来たっ!」

「噂をすれば」

「遅刻ギリギリですけどね……」


 翌日に教室に入ると、桜ヶ丘、冬島、秋月の三人が俺の方を見てくる。

 なんだよと疑問に思っていると、金髪を揺らしながら桜ヶ丘が近づいてくる。


 可愛らしい笑顔を振りまいて寄ってくる。

 そんな表情と目立つ彼女に教室の視線は俺たちに集まる。


(おいおいおい、みんな見てるんだからそんなに笑顔で寄ってくるな)


 そう思いながら、桜ヶ丘の方を見る。

 大きな瞳に赤い唇とこっちが意識してしまいそうになる。


「ほっぺた痛くない?」

「痛くねぇよー、ご機嫌だな」

「え? いっつもこんな感じじゃない?」

「いや、明らかにいつもよりテンションがおかしいだろ」


 俺がそう言うと、桜ヶ丘は頭を抱えて唸っていた。


「そういえば聞いていいのかわからないけど、昨日は大丈夫だったのか?」

「あ、うん! パパと話しあったら、ごめんなってさー!」

「そうか、よかったな」

「反応うすっ!」


 桜ヶ丘はケラケラと笑っている。

 俺としては早く会話を終わらせてこの注目を解きたいだけなんだが。


「パパが謝るなんて本当にないんだからっ!」

「まぁ、あの親父さんは謝らなそうだよな…………あ、ごめん」

「ううん、別にいいって――――本当ありがとね」

「え? なんか言った?」


 最後の方良く聞こえなかったので、聞き返すと桜ヶ丘はニシシッと小悪魔のように笑いながら口を開く。


「なんでもなぁーい!」

「それは何かある奴の言い方だぞ」

「うぇ?! め、名探偵?」

「誰が身体は子供じゃ」


 俺がそんなツッコミをすると、さらに桜ヶ丘は笑う。

 あの時の涙が嘘のように。


「転校の話も一旦置いとくとか言ってたし」

「それは……よかったな」

「うん! あ……でも変わったことが二つあるよ」

「な、なんだよ……」


 桜ヶ丘のその言葉に俺はごくりと生唾を飲む。


 あんなことがあったし、何かヤバいことが起こっているんじゃないかと思ってしまい、身構える。


「パパがユキのことめっちゃ嫌ってた」

「それはそれは……って、ん? ユキ?」

「うん? 幸也でしょ? だからユキ」

「おう? それはわかるけどなぜ?」


 俺がそう聞くと、なぜそんなことを? みたいな表情で首を傾げる桜ヶ丘に俺は困惑する。


「あ、そっかそっか、ユキもアタシのことサリーって呼んでいいよ」

「いや呼ばねぇよ」

「えーつまんなーい」

「そんな呼べるかっていうか……注目が」


 桜ヶ丘が俺のことを「ユキ」と呼んだことにより、教室がざわざわとうるさくなる。


 色々な場所から殺気のような視線と気になるという視線がグサッと刺さる。


「パパあの後、めっちゃきれてたんだから! もうアタシのことなんてほっといて、ユキの話ばっかり!」

「それは逆に俺のこと大好きだろ」

「あははっ! そうかもね!」


 桜ヶ丘の親父さんにはとても嫌われてしまったみたいだ。

 まぁそれもそうだな、他人が家族の中に割り込んで生意気なことを言ったんだから。


(それに我ながら笑えない冗談を言ったつもりだし、怒られるのは当然だし、嫌われる覚悟だったからな)


「変わったことって二つだったよな?」

「うん、そーだよ」

「もう一つはなんだよ」

「それはねー?」


 そう言って、自分の席に戻る途中でクルッと振り向いて俺の方を満面の笑みで見つめてくる。


「ユキのこともっと好きになったってことかな!」

「え――――? いや! は?!」

「あははっ! もちろん友達としてだよっ」

「いや、それを言ったところでもう遅いだろ」


 俺はわかっていた。友達としてってことはでも教室の奴らからするとなんでこんな陰キャオタクがとも思っている。


 だからほら、こんなにすごい殺気が……。


「大変だねアンタ」

「本当だよな」

「まぁ頑張れ、ユキ」

「なっ……」


 冬島がニヤつきながら俺のことをそう呼んでくる。

 絶対にイジっている、面白そうだからって。


「それと、サリーから聞いたよ頑張ったんだって? あんがとね」

「え? あ、あぁ……」


 なぜか冬島からはお礼を言われ、秋月からはお菓子をもらった。


 教室中の男子からそんな様子からも、殺気をプレゼントさえ明日にはこの世にいないかもしれないと軽く天に祈っていた。

 

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