第30話 陰キャオタク他人の親父につっかかるなんて存在しない
「あーあ、どんな感じに怒られるかなー?」
「最初は心配されるんじゃないか?」
「ママはね? パパ絶対に怒るよ」
「まぁ、今回のことは怒られてもしょうがないと思うから味方はできないぞ」
俺がそう言うと桜ヶ丘はムスッとした表情で頬を膨らませて、そっぽ向く。
「別にいーし、アタシが悪いのわかってるっつーの」
「まぁ言い訳を考えることをしとけ」
「言い訳って言われても思いつかないし」
「じゃあ、ごめんなさいの一点張りしかないな」
桜ヶ丘は俺の言葉を聞いてニコッと白く並びの良い歯を見せながら笑っている。
「確かに、謝るしかないね」
「あぁそん時は俺も一緒に謝ってやるよ」
「え、いいの! やっさしー」
「まぁ俺も悪いところはあるしな」
桜ヶ丘にそう言うと表情がとても明るくなった気がする。
実際、俺が泊まりたいって要求を強く拒否すれば彼女も無理に泊まることはしなかっただろうし、少し期待したことも事実だ。
(それに、ラッキーなことも多かったし……)
俺は自分に得のあることがあったため、叱られなくてはいけないとも思っていた。
不可抗力な場面も多かったが、罪悪感がすごい。
◆
「つ、着いたよ……ここがアタシのお
「ここが桜ヶ丘の家……大きいな」
「それオタが言う?! オタのお家の方が大きいと思うんですけど」
「そ、そうかな……」
自分の家が小さいとは思わないむしろ大きい方だともわかっている。しかし桜ヶ丘の家も相当大きい方だとは思った。
「オタはここでもういいよ?」
「いや、俺もさすがに挨拶してから帰るよ」
「でもそんなん悪いし……」
「もう今更だろ?」
俺がそう言うと、桜ヶ丘はムッとした表情で脇腹を小突いてくる。
「それじゃあ私がいつも迷惑かけてるみたいじゃん! まぁかけてるんだけど」
「かけてると思ってるのかよ」
「そりゃあアタシだって思うよ」
「だから今更って思うだろ?」
桜ヶ丘は納得はいっていない様子だった。
その後インターホンを鳴らし、扉がガチャリと開く。
そこには桜ヶ丘の母親であろう美人な人が立っていた。
「あら! おかえり~」
「ママただいま……ごめんね、出て行ったりして」
「ううん、無事ならいいのよ」
「ママ……ありがと」
桜ヶ丘は母親の反応を見て、どこか安堵した様子だった。
そしてパチリと美人なママさんと目が合う。
「あ、そちらが熊谷さん?」
「あ、はいっ、ごめんなさい申し遅れました。熊谷幸也と言います」
「ごめんなさいねぇ。うちの娘が、本当にご迷惑をかけたでしょう?」
「い、いえ……こちらこそ、大事な娘さんを申し訳ありません」
俺が頭を下げると桜ヶ丘にもママさんにも頭を上げろと言われる。
「あ、そうだ! ちょっと上がって行ってよ、お話聞きたいから」
「いやでも――――」
家の中へと招待されると同時に玄関から顔を出したのはいかにも厳格そうなおじさんだった。
「なんだ不良娘が帰ってきたのか」
「――――ッ、パパ」
「…………なんだ、ごめんなさいの一言もないのか」
「あなた、梨々香だって反省していますから」
桜ヶ丘のママさんがそう言って親父の方を宥める。
しかし聞く耳を持ちそうにはない雰囲気だった。
桜ヶ丘の表情は先ほどとは変わって曇っている。
「ん? 君は……」
「あ、こちら熊谷さんよ、ほら梨々香を泊めてくれたって言うお友達よ」
「熊谷……そうか君がか」
「まずは熊谷さんにお礼を言いましょう? ね?」
ママさんの促しにより感謝とお辞儀をされる。
しかし次にはギロリと俺を狩猟対象かのように睨んでくる。
その目つきに俺は背筋を凍らせる。
動物的本能だと感じた。早く逃げろというサインだったのかもしれない。
「熊谷君、送ってくれてありがとう。あとはこちらの問題だからもう帰っていいよ」
「え?」
「別に君がここに長居する必要はないだろ?」
「それはっ――――そうですけど……」
先ほどの俺への目つきは今度、桜ヶ丘へ向かう。
「不良娘への説教をよそ様に見せるなんて恥を晒すわけにはいけないからな」
「はぁ? なんなの! アタシのこと不良娘とか恥とか言ってんじゃ――――」
桜ヶ丘がしびれを切らし、親父へと歯向かう。
しかし驚くことに桜ヶ丘の頬を親父は一発ビンタしたのだ。
「今聞こえなかったのか? よそ様に恥ずかしい所を見せたくはないと言ったのだが」
「…………ッ」
「その反抗的な目はやはり高校に入ってから変わったな」
桜ヶ丘は殴られた後も親父の方を睨み続けている。
その様子にさらに機嫌が悪くなる。
「やめてください、あなたっ!」
「離せっ、今日は厳しめに行かないといけないな」
桜ヶ丘の親父がそう言って彼女に近づいて行った瞬間に俺は声を荒げて口を開いた。
「何してるんですかっ! やめてあげてくださいっ」
「部外者は関係ないだろ」
「たしかに俺は部外者ですよ、でも自分の娘が一日出て行ったんですよ、心配してあげるのが先でしょ!」
「なんだと? 君がなぜ偉そうに口出しできるんだ?」
俺の言葉に桜ヶ丘の親父は全く相手にしないかのように聞き流しながら話す。
その態度に俺の方がいら立ちを覚える。
しかし母さんの冷静にいろという言葉を思い出し、深呼吸を一つ。
「自分の娘さんが男の家に寝泊まりしたんですよ? 危険だとは思わないんですか?」
「なんだと?」
「俺が娘さんとお熱いことをしてたりね、それも無理矢理、嫌がる彼女を押さえつけて」
「君の家には母親が監視でついていたみたいだが?」
親父さんはそう言ってくるがそこでもまた嘘をつく。
「母さんはお酒を飲んで寝てしまったのでやりたい放題でしたよ」
「そうか……熊谷君、私はね面白くない冗談が嫌いなんだ」
「そうですかそれはよか――――ぶはっ」
一発、二発と親父さんから重たい一撃を両頬にくらう。
その拍子に俺は地面へと尻もちをつく。
「幸也!」
桜ヶ丘の心配と驚きが入り混じった表情が俺に向けられる。
親父さんからは殺気が
(さぁて熊谷幸也、ここが正念場だそ……どうする?)
俺はこの時だけは、今日だけはラノベの主人公になりたいと心で思っていた。
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