第28話 陰キャオタクの16歳に見切りをつけるなんて存在しない!
「幸也! そろそろお風呂に……」
「あ、母さん……」
「あら、梨々香ちゃん眠っちゃったの?」
「あー、そうだよ。喋るだけ喋ってな」
桜ヶ丘は俺と話をしている時、眠くなって寝落ちした。
スースーと寝息を立てながら、可愛らしい寝顔で俺の肩にもたれかかっている。
「梨々香ちゃん、金髪のイメージが強すぎてアレだけど、ホント可愛らしい顔してるわよね~」
「……まぁ、そうだな」
「おや? 女の子なんて興味がなさそうなアンタが梨々香ちゃんは可愛いと思うんだ」
「別に可愛いと思う女の子はいるけどタイプじゃないってだけだよ」
俺がそう言うと、母さんはため息を吐いて、呆れた瞳で見つめてくる。
「自分の理想ばっか追いかけてると、誰もいなくなっちゃうわよ」
「うるせぇ、ほっとけ」
「まぁ? アンタたちはまだ若いからいいとは思うけどね」
「まぁ今年で17歳になるからな」
まだ16歳の男子高校生に見切りをつけるのは早い。
しかし、母さんの言葉が俺の胸をえぐっていることも事実。
「ていうか――――あんたいつまでそうしてるつもりなの?」
「離そうとしても、無理なんだよ!」
桜ヶ丘のことを離そうと何回もしたのだが、できなかった。
彼女のことを起こしてしまいそうで怖かったのと、もう少しこの寝顔を見ていたいと純粋に見てみたいと思ってしまったから。
しかし、なにもせずに見ていた俺を褒めてほしい。
危ない男子高校生なら桜ヶ丘は襲われているだろう。
「そんな大きな声出したら起きちゃうわよ?」
「わ……わかってるよ」
「まぁ、お風呂は入りなさいよ? それと梨々香ちゃんは私の部屋で寝させるからね」
「え、そうなの?」
母さんの言葉に俺が聞き返すと、なぜか目を細めて疑いのような目を向けられる。
「な、なんだよ……その目は」
「えぇ? なぁんかいやらしい目で梨々香ちゃんのこと見てそうだったから」
「そ、そんなことっ……」
「私の部屋で寝させるのは幸也を守るためでもあるのよ、いくら高校生でお盛んだからって駄目よ」
何を言っているんだこの母親は……。
そう思いながらも、確かに身の潔白を証明するためには必要か。
(てか、自分の息子にそういうのがないのは母さんが一番知ってるだろ……)
「ま、いいからさっさとお風呂入ってきなさい」
「わ、わかったよ」
「んじゃね」
「あぁ……」
母さんは俺に手を振りながら、自分の部屋へと戻って行く。
俺もそろそろお風呂に入らないとなと思っていたので、桜ヶ丘を起こさないように、ゆっくりと離す。
「ん、んぅ……」
桜ヶ丘のその漏れるような声に俺は心臓がドキッとなった。
別に変な意味ではなく、起こしてしまったかという不安からだ。そうに違いない。
「しっかし……可愛い顔ねぇ」
「なぁに、ジロジロ見てるんだし」
「え、は? お、お前起きてたのかよ!」
「今起きたんだよー」
桜ヶ丘はそう言いながら、両腕を上に挙げて伸びをしている。
その時、彼女のスタイルの良さが浮き彫りになる。
出るところは出て、引っ込むところは引っ込んでいる、とても男子にとって理想の体型に近いんじゃないかと思う。
「ねぇ、オタは優しいね」
「な、なんでだよっ」
「ずっと離れないでいてくれたんだもんね」
「ち、違うっ……別にそういう優しさとかじゃない」
俺がそう言うと、桜ヶ丘は不満そうな表情をしていたが、ふっと一息吐いて、体育座りをしながら髪の毛を耳にかける仕草をする。
その時の桜ヶ丘の表情はどこか危なげで、しかし美しかった。
そして、ニヘラッと笑いながら口を開いた。
「はは、そーゆーことにしといてあげるっ」
「どうも、ありがとう」
俺がそう言ってそっぽ向いた次の瞬間だった――――、桜ヶ丘に押し倒される形で床に倒れた。
「な、な、なにしてっ!」
「アタシどうしちゃったんだろうね、急にこんなこと」
「お、俺が聞きたいわ」
「でもね、こうしたかったの」
下から見る桜ヶ丘はとても新鮮で、彼女の髪の毛がはらりと落ち頬に当たりくすぐったい。
しかしその髪の毛からとてもいい匂いがする。
髪の毛だけではなく、桜ヶ丘の全身からいい匂いが放たれている。
「肉食系女子が」
「嫌い?」
「肉食系女子はな、あまり好かん」
「じゃあ――――私のことは好き? 可愛いと思う?」
桜ヶ丘のその言葉に正直ドキッとしてしまった。
彼女のその問いに、俺は頭をフル回転させた。
別に嫌いではない、それは確かだが恋愛的なのかと聞かれたらわからない。
わからないということは違うという事だ、それに桜ヶ丘もそれを聞いてるわけではないと思う。
(どうすんだよ……この状況)
「友達として? 好きだし可愛いと――――」
「すーすー」
「桜ヶ丘?」
「…………」
俺が聞いても返事がない、それに俺に乗っかったまま顔を胸に置いて寝ている。
それに今になって、ふとももとか胸とかの感触が分かるようになってくる。
冷静になり一段とすごくなる。
制服の時に抱き着かれた時とは全く違う胸の感触やふともも体重のかかり具合が絶妙にマッチして、陰キャオタクにはどうも刺激が強い……。
(こんな状況誰かに見られたら……)
「幸也ぁ? なにしてるのかしら……」
「か、母さん……?」
「何か言いたいことは?」
「違うんだ! 俺は、俺は犯人じゃない!」
そう言ったところで無駄だった。
桜ヶ丘を部屋まで移動した後、母さんの説教地獄が始まった。
俺がお風呂に入ったのは、2時過ぎになってしまった。
今日は早く起きなければいけないのに……。
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