第27話 俺に彼女ができる自信なんて存在しない

「落ち着いたか……?」

「う、うん、ごめんねっ変なこと言って」

「別に俺はただ聞いてただけだよ」

「ありがと……」


 桜ヶ丘は申し訳なさそうに頭を下げる。


「俺はさ……父親は海外で仕事してて母さんは出張とか会社に泊まることが多いから、実質この家で一人暮らしみたいなもんなんだよ」

「うん」

「干渉されないって意味では、結構気楽だから桜ヶ丘が俺の生活を羨ましがるのもわかる」


 俺は桜ヶ丘の相槌や言葉を待たずに続ける。


「でも、その分なにも干渉されないってのは悲しくもあるよ」

「ごめん、オタにとって嫌なこと言ったよね?」

「いやそう言う意味じゃないよ」

「え?」


 そう言うと桜ヶ丘は不思議そうに目を丸くしていた。

 

「母さんがさっき言ってたんだ、心配してくれる大人は貴重だって」

「貴重……でもそんなの」

「あぁ――――それで桜ヶ丘のことを締め上げているのもわかる」

「…………うん」


 そうだ、心配してくれる大人は貴重かもしれない、ただ何事にも限度というものがある。


 そのことが子の為になるかもしれないが、本人にとって生活に支障をきたす可能性だってあるんだから……。


「大人はさ……子供のことをわかる気になって、色々してくるけどさ結局わかってないんだよ、過去には子供でも今は大人なんだから」


(そうだ大人は俺たちのことをわかる気になってるだけなんだ)


「そうだよね! でもわかろうとしてくれるだけマシっしょ」

「まぁ、それはな」

「アタシのパパは意見も聞かないで自分の考えを押し通そうとする頑固だからさ」

「そんな親父さんだったら黒髪から金髪にしたら、気絶するんじゃないか?」


 俺が冗談で言うと、桜ヶ丘は腹を抱えてあははっと大きな声を出しながら笑った。


「あっ、そうだ……昔の写真見る?」

「昔の写真?」

「アタシの中学生の時の写真!」

「そんなの持ってるのか?」


 中学の時の写真なんて、スマホにはもうない。

 高校生になった時の写真ですら、少ないんだから。


「あ、ほれ見てみ!」


 そう言いながら、スマホを俺の目の前に差し出して見せてくる。


 スマホの写真には黒髪で今よりも少し髪の毛の短い桜ヶ丘が写っていた。


「ほ、本当に黒髪なんだな」

「そうだよー、結構似合ってるっしょ」

「あぁ……結構どころじゃないけどな」

「マジっ!」


 桜ヶ丘はその言葉を聞いて嬉しそうに、口元を緩める。


(正直、この写真を見せられてしまって、お父さんの気持ちが分かりそうで怖い)


 黒髪清楚の優等生美人って感じでいかにも周りに敵なしといった学生。

 絶対何人にも告白されてるんだろうなって感じる。


「この時はモテてたなぁ」

「だろうな」

「え、やっぱり思う?」

「まぁ思うよ」


 桜ヶ丘はニシシっと笑ってしかしその写真を見る目はどこか苦しそうで悲しそうだった。


「この時はパパの言うとおりにするいい子でいたんだよ」

「だろうな。いろんな写真を見る限り、立ち振る舞いが今と違いすぎる」

「パパは絶対こっちのアタシの方が良かったんだろうね」

「そうとは限らないと思うけど……」


 俺がそう言うと、桜ヶ丘は疑うような眼差しで見つめてくる。


「な、なんだよ」

「オタのタイプだってこういう人が良いんでしょ? 黒髪清楚で」

「ま、まぁ……俺のタイプはな」

「ほら見たことか!」


 桜ヶ丘はプリプリと頬を膨らませながら怒っている。

 別に俺のタイプとお父さんが桜ヶ丘の前が好きと言うのは関係ないんじゃないかと思っていた。


「別に俺のタイプは黒髪清楚だけど、俺が知っている桜ヶ丘は金髪のギャルだから今の方が似合っているよ」

「え……な、なんかそう直接言われると逆に恥ずかしいっつーか」

「なんなんだよ」

「う、うるさいなぁ!」


 桜ヶ丘は顔を赤くして、もごもごとしていた。


 人のタイプは早々変わらない。

 しかし俺の知っている桜ヶ丘は金髪のギャルで話やすい女の子だ。


 前のことは知らないし、中学の時の方が良いとかも思わない。


「自然体でさ、今が一番いいと思うよ」

「そ、そっかぁーオタは今の私が好きか!」

「まぁ急に優等生っぽくなられても反応に困るし、話せなくなりそう」

「ぷっははっ! なにそれヤバー」


 桜ヶ丘は俺の言葉に、笑っていた。

 陰キャオタクは女の子の身なりが変わっていたら、気付きはするがどう反応していいかわからんのだ。


「幸也、お風呂入っちゃいなさい」

「あ、うん……それじゃあ」


 母さんに呼ばれてお風呂に入りに行こうとすると、腕をぎゅっと掴まれる。


「もう少し、お話しよーよ」


 桜ヶ丘は頬を赤らめてそう言ってきた。

 たぶんこれは恥ずかしがっているんだ、しかしお風呂とお喋りを天秤にかけた時、釣り合いすらもしなかった。


(こんなところで、選択を間違うほど鈍感でもないのだよ)


 脳内でそのように話して、俺はもう少し後にお風呂に入ろうと決めた。


「ったく、仕方ないなぁ」

「やった! オタそういう優しさは必要だよ」

「なににだよ」

「彼女を作る時に」


 真面目な顔で何を言ってるんだと思った。


「余計なお世話だよ」

「せっかく心配してあげてるのに」

「心配すんな、俺に彼女できるとか思ってないから」

「マジ悲しすぎる自信でしかないよそれ」


 と呆れてる桜ヶ丘とのお話はまだまだ始まったばかりだと少し楽しみになっていた。

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