第25話 心配してくれる大人が貴重などという世界は存在しない
「あらぁ~、めちゃくちゃ可愛い女の子じゃないの!」
俺は母さんに隠すことなくすべてのことを話した。
隠しても母さんにはすべてバレるので、怒られる前に話すというのが最善だ。
「ごめんなさい、こんな時間にお家に上がり込んでしまい……おた、熊谷幸也くんと同じクラスメイトの桜ヶ丘梨々香です」
「いいえ~、初めまして幸也の母の
桜ヶ丘はペコリと頭を下げる。
長い髪の毛がはらりと揺れる。
(てか、桜ヶ丘のやつオタって言おうとしてたよな?)
母さんは金髪の髪の毛に最初こそ驚いていたが、すぐに見慣れたようで気にせず話していた。
「まぁ事情は分かったわ。いいわよ今日はもう遅いし泊っていきなさい」
「え! い、いいんですか?」
「その代わり親御さんにちゃんと話すこと、もちろん電話よ?」
「わ、わかりました……」
桜ヶ丘は母さんに言われるがまま、電話をかける。
「お、おい……いいのか? 女の子をこんな時間に」
「アンタねぇ、こんな時間に帰すのも悪いでしょうが」
「母さんが送って行けばいいじゃん」
「それに、家に帰りたくない時だって誰にでもあるのよ、母さんだって昔は結構やんちゃしてたし」
と衝撃のカミングアウトを聞いたところで、桜ヶ丘が親御さんと会話している。
「だから! 友達の家って言ってるじゃん!」
「梨々香ちゃん、代ってもらえる?」
「あ、はい」
「ん、ありがとねー」
桜ヶ丘がヒートアップしてきたときに母さんが電話を代わる。
「あ、ごめんなさいお電話代わって熊谷幸也の母です、申し訳ありませんうちのバカ息子が娘さんを――――」
(おい、まて……バカ息子とはなんだ)
母さんはその後10分ほど桜ヶ丘の親と電話をしていた。
「はい、梨々香ちゃんありがと」
「いえ……あの親なんて言ってました?」
「ん? 泊まってもいいけど明日の朝には帰ることだって」
「そ、そうですか……」
桜ヶ丘はそれを聞いた時ホッとした様子だった。
「でも――――とても心配されてたわよ」
「そう……ですよね、過保護なんですよ本当に」
「過保護ねぇ……心配してくれる大人は貴重なのよ」
「貴重……」
母さんは桜ヶ丘が一番心に来そうな言葉をわざと話した。
「梨々香ちゃん先にお風呂入っちゃいな」
「いえ、流石に一番先にお風呂をもらう事はできませんよ」
「いいからいいから、ほらさっさと入る!」
「は、はいっ!」
そう言って桜ヶ丘はペコリとお辞儀として、タタタッと早歩きでお風呂場へ向かっていく。
そのあと、桜ヶ丘がお風呂場へ入っていくのを確認したあと、はぁとため息を吐く。
「俺に何か言いたいことがあるから、お風呂を譲ったんだろ?」
「おー、正解」
「仕事終わりの大好きなお風呂を譲るなんて相当だもんな」
「まぁ、少しは優しさもあるし、梨々香ちゃんがどのくらい時間かかるかとか分からないからね」
そう言いながらソファに腰掛ける。
そして俺のことを力強い目で見つめてくる。
「めちゃくちゃ心配してたよ、あの子のこと」
「親御さんがか?」
「そう、まぁまだ17歳とかでしょう? しかも女の子だったら過保護って思うのも仕方ないかなぁ……」
「そんなにヤバかったのか?」
話を聞くと、朝の7時から8時の間には家に帰してほしいや、小学生でもできることを確認してきたらしい。
「ヤバいってことはないんだけどね、心配なんてしてくれる大人は本当に貴重なんだから」
「そういうもんかなぁ……」
「まだまだガキのアンタたちにはわからないのよ」
「そんなこと……」
ガキと言う言葉に、俺はムッとしてしまったが母さんの真っすぐな瞳にそんな思いは消えていった。
その代わりに桜ヶ丘が今日お風呂に入っているという事実に頭の中が埋められていく。
「あんた、今日は梨々香ちゃんの話たくさん聞いてあげな」
「お、おう……てか、怒らないんだな」
「怒るようなことしてないでしょ、こういう時の責任は親の私にあるの、怒られるのは私だけで十分よ」
「そっか」
母さんのその言葉に胸が熱くなるものがあった。
今日俺は桜ヶ丘とお泊りすることが決まった。
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