第23話 オタクにお泊りなんてイベントが存在するわけがない!

「くっそ、鈴村、馬場のことさっさと連れてってよ」

「そうは言われてもなぁ、邪魔すんなって言われてて……」

「こっちはめちゃくちゃ迷惑なんですけど」

「まぁ、そうだよな……」


 鈴村は頭をポリポリと掻く。

 この動作だけでかっこいいのだから世界は残酷である。


 陰キャでオタクの俺がこの動作をまねしたら、不潔感満載なところが出てしまう。


 いや、でもちゃんとお風呂とか入ってるからな?!


「はぁー、俺ももう帰りたいし、言って来るわ」

「そうだ、さっさと行けっ!」

「はいはい」

「まったく……どんだけこっちに迷惑かけてると思ってるんだ」


 冬島はそう言いながら、プンプンと怒っている。

 俺は触れないようにそっとしておこうと思った。


 鈴村の言葉で馬場はすんなりと店から出て行った。

 しかし、今度機嫌が悪くなっていたのは――――。


「おっそーい! 三人ともドリンクバー行って帰ってくるまでの時間長くない!?」

「はは……悪いとは思ってるけど、馬場と鉢合わせたくなくて」

「うちもあいつ嫌いだから」

「わ、私も苦手で……ごめんね? サリーちゃん」


 そうは言っても桜ヶ丘はあまり納得していない様子だった。

 それもそうだろう、一番疲れるのは桜ヶ丘なのだから。


 しかし、あそこで男の俺が行ったら面倒くさいことになっていたと思うし、桜ヶ丘には悪いが、やはりこれが最善だった。


「アタシだって、馬場のことなんて好きじゃないよ! アイツが勝手に絡んでくるだけだもん、マジ最悪っしょ」

「サリー、めっちゃ興味なさそうだったしね」

「アイツに俺のカラオケでの十八番聞く? とか言われて興味ねーっつうの!」

「サリーちゃん、ミーちゃん、悪口はダメですよ」


 冬島と桜ヶ丘が馬場のことでヒートアップしていく、それを秋月がなだめている。


 それほど、桜ヶ丘と冬島は溜まっていたのだろう。


(冬島は俺と一緒に早めに抜け出してきたよな……?)


 あれ? と思ったが、何も言わないようにした。


「あーもうダメだ! アッキーに慰めてもらおう」

「へ?」


 桜ヶ丘はそう言いながら、秋月の胸へと顔をダイブさせる。

 大きな秋月の胸が桜ヶ丘の顔を包み込む。


「やばー、寝れるわぁ~」

「わかる、アッキーの胸は寝れる」

「私の胸は枕じゃないよ!」

「おい、お前らここは学校でも家でもないんだから、やめろ」


 俺は一目があるので、さすがに止める。

 ここがもし家や学校だったら止めてはいなかったが……致し方ない。


「そんなこと言って、オタだってしたいくせに」

「そ、そうなんですかっ!?」

「うわ……変態」

「まだ何も言ってないんだが!?」


 そんなこんなで、俺たちは十分に時間を費やした後、お店を出る。


 みんなと解散し、家に着き一息ついていた時だった。

 ピンポーンとインターホンが鳴る。


「はーい」


 そう言って、玄関の扉を開けると――――。

 金髪のギャルがそこには立っていた。


「な、なにしてんだよ……」

「いやぁー、ちょっと遊び足りないって思って」

「だったら、冬島とか、秋月とかの方が……」

「なに? アタシとは遊びたくないってわけ?」


 桜ヶ丘が目を細めながら言って来る。

 別にそう言う事ではないのだが……、時刻は20時を過ぎそうだった。


(こんな時間に男女が二人きりって……ヤバくないか?)


「てか、こんな時間まで遊んでたら親御さんとか……」

「…………親ね」


 俺のその言葉に桜ヶ丘は明らかに表情を曇らせる。


「大丈夫、さっき話してきたから」

「なんて言ってきたんだよ」

「まぁまぁ、それはいいじゃん」

「良くない――――」


 そこまで言うと、桜ヶ丘の瞳は潤んでいるように思えた。

 別に気のせいかもしれないが、どこか――――そう感じた。


「それに、この時間から女の子一人をお家に帰すの?」

「俺が送って行けばいいだろ」

「ぐ……そ、それはそうだけど」

「考えてなかったのかよ」


 俺はそんな桜ヶ丘に呆れてしまう。

 すんなりとオッケーを出すと思ったのだろうか。


 そこまで俺はヤバくないし、何かに飢えてもいない。


「で、でもオタじゃ頼りない……し」

「…………」

「あ、ごめん」

「謝るな、否定できない自分がいたんだから」


 謝られる方が心に来る。

 たしかに、男子とはいえ高校生でしかも部活も何もやっていない、もしかしたら女子よりもか弱い可能性がある。


「はぁ……わかったよ、ちゃんと22時くらいには帰れよ」

「う、うん――――」


 桜ヶ丘が返事をするまでに数秒の間があった。

 それに、なぜかさっきお店にいた時とは違うバッグを持っている。


「なんか荷物多くないか?」

「あー、これはその……

「下着?」

「だからその、ブラジャーとかパンツ」


 いやなんで下着を持ってきているのかを聞いたのであって、再確認したわけではない。


「なんでだよ?」

「その、


 俺はその衝撃の言葉に耳を疑った。

 やらかしたとも思ったが、もしかしたらとか思ってしまうのも男の性だ。


 とりあえず、俺の心臓の鼓動は早くなっていた。

 それに、そもそもオタクにお泊りなんてイベントが存在するわけがない。

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