第21話 オタクにテスト終わりの打ち上げなんて存在しない
テストの全過程が終了し、教室にはだらけた空気が蔓延し始めた。
俺も正直、疲れたのでさっさと家に帰りたい。
(今日は溜めまくってるゲームを消化するぞ!)
そう意気込んで教室を出ようとした時だった――――グイっと俺のバッグが横に引っ張られる。
「おわっ――――」
「ちょいちょい、なに先に帰ろうとしてるのさ」
「なにって……」
「今から打ち上げ行くよ」
俺はその言葉に「は?」と声が出そうだった。
打ち上げに行くなんて話は聞いていないし、急に言われたって……予定はあるわけがないのだが。
「そんな話言ってたか?」
「サリー言ってなかったの?」
「いや、言ったよ! ほらっ!」
「……これは言ったとは言わないだろ」
桜ヶ丘から送られてきた言葉は「明日空いてる?」とだけ来ていた。
それに「うん」と返しスタンプが返されて会話は終了している。
「うん、サリーこれはただ予定聞いただけだね」
「えー……じゃあオタは来ないってこと?」
「いや、そうは言ってないけど」
「空いてるんでしょ? 嫌じゃなかったら来なよ」
冬島はそう言って、俺に選択を委ねてくる。
こういう時にいつもまとめるのは冬島の仕事である。
(これがデキル女というやつか)
かゆいところに手が届く、というよりみんなのことを、周りのことを見てもめごとにならないように空気が悪くならないように立ちまわっているのか。
「まぁ、嫌じゃないけど、その……後は誰が来るの?」
「あ、アタシたち三人だけだよ!」
「え、じゃあ男は俺一人?」
「ニシシッ、贅沢じゃのぉ~? 現役JK三人と打ち上げだなんて」
ニマニマと白い歯を見せつけてくる表情はからかってきてるんだろうなと感じさせる。
現役JK三人とテスト終わりに打ち上げに行く。
こんなこと、学生時代に経験できるかどうかわからない、しかもこんなオタクで陰キャな俺が。
「そうと決まれば、さっさと行こう!」
「そーだね、アッキー行くよ!」
「はーい、ふふっ、幸也くんも早く行きましょう?」
「お、おう……って引っ張るなよ!」
秋月は短い髪の毛を揺らしながら、俺の袖を掴んで引っ張ってくる。
急に走られて、俺は足がもたつく。そんな慌てている俺を見て、みんなが笑いだす。
「何してるの、オタ~」
「ほんと、鈍くさい」
「ふふふ、幸也くん気を付けてくださいね? 危ないですからっ」
「元はと言えば秋月がいきなり引っ張るからだろ!」
本当に……オタクに優しいギャルなんて、学校に存在しない。
しかし、前ほどの偏見や勝手な嫌悪はない。
◆
「それじゃあ! かんぱ~い!」
桜ヶ丘の掛け声とともに、俺たちはグラスをコチンと音を鳴らす。
(もちろん、グラスの中身はジュースだけどね)
ドリンクバーで頼むものはメロンソーダに限る。
メロンソーダこそが頂点である。
「オタの飲みっぷりいいねぇ~!」
「お酒かよ……」
「あははっ、ミー若干引いてるじゃん」
「い、いいだろ、好きなんだから」
俺がそう言うと、冬島はフッと鼻で笑ってくる。
「な……なんだよ?」
「別に? お子様だなんて思ってないから安心して?」
「うん、それは思ってる奴の言葉だな? おいこら」
「うわ、怒った」
別に怒ってないのだがとか思いながら、冬島のグラスを見る。
そこには俺と同じ緑の液体が入っていた。
(おめぇも、メロンソーダじゃねぇか)
「そういう冬島もメロンソーダだろ、特大のブーメランが返ってきてるぞ」
「――――ッ、う、うるさいなぁっ……わ、うちは自分のことお子様だと思ってますよ、お口に関してはね」
「いや、全部お子様……」
「あ? 何? 身体もお子様とか言いたいの?」
ギロリと俺を睨むような瞳になり、背筋が凍るような気がした。
「い、いや……別にそんなことは、ちゃんと女の子らしいというか、理想形と言いますか……」
「ふ~ん? アンタうちのことそう思ってるのだ」
「あ、いやちがっ……これは」
「まぁそれセクハラだけどね」
そう言われて俺はさらに慌てて、そのあと自分が何を喋ったのかあまり覚えていない。
「ふ~ん? オタはミーみたいのが理想なんだ」
「だからそれは、誤解というかなんというか」
「私みたいなのは幸也くんの理想には程遠いですよね」
「だからぁ!」
俺が困っているのをみて、三人は目を合わせて幸せそうに楽しそうに笑う。
(クソ、途中から絶対ふざけてたろ、こいつら……)
しかし、不思議と嫌という気持ちにはなれないし、怒りみたいな感情も湧いてこない。
それもこれも、この三人の笑顔をみていると、怒りたくても怒れないし、そもそもそんな感情が生まれないんだと気づく。
「あっはははっ! オタおもろすぎ!」
「今のは……くくっヤバすぎ」
「ふふっごめんなさい幸也くん、ついつい……」
「クソ……まったくだ」
それに、この状況が楽しいと思ってしまう自分もいる。
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