オタクに優しいギャルなんて学校に存在しません！～だけど学校のギャルに勉強を教える先生に任命されました

第19話 女子生徒と一緒に帰る予定なんて存在しない

「やばい……明日テストかぁ～」

「結構緊張してくるよね」

「今までで一番頑張ったからこそ、緊張する」

「マジわかる」

　冬島と桜ヶ丘は二人でそう言いながらソワソワとしている。

「二人は余裕なさそうだな」

「アンタと違って、毎回いい点ってわけじゃないんでね」

「それに今回はオタに教えてもらってるのに、できなかったら申し訳ないし」

「別にそんなこと思わなくていいよ」

　そうは言ったものの、多少プレッシャーを感じているようだ。

　今回の勉強会を無駄にしないために、成果を見せるために。

「秋月は二人よりも焦ってないな？」

「ふぇ……あ、えぇ、私は秋月穂波ですから、結局神様が見ていてくれていますよ」

「なんか、悟り開いてるし、一番まずいかもしれない」

「あはは、あははは」

　秋月はそう言いながら顔は笑っていないのに、笑い声を出す。

　俺はそんな秋月の肩を揺らし、現実世界に引き戻す。

「はっ！　今なにか夢みたいなものを見ていた気がします」

「危なかったな、悟りを開いていたぞ」

「…………それは、やばいですね」

「絶対わかってないだろ」

　秋月にツッコミをしていると、桜ヶ丘がこちらをじっと見つめてくる。

「どうしたんだよ？」

「なぁんか、先生なら生徒が頑張れるようなあれがないのかなぁと」

「あれってなんだよ……頑張れるご褒美的なやつか？」

「そうそう！　さっすがオタ！」

　キラキラとした表情で俺のことを見てくる桜ヶ丘から目を逸らすと、秋月ももじもじとこちらを上目遣いで見つめてくる。

「私も欲しいかなぁ～？」

「な……それ本当かよ」

「ほ、本当ですよっ！」

「でも、俺がしてあげられることなんてあんまり……」

　そう言って、秋月からも目を逸らし、最後の砦冬島のことを見る。

（いらないでしょ、とか言ってくれるよな！　な！）

「まぁ、もらえるんだったら欲しいし、いいんじゃない？」

「…………わかったよ」

　俺は観念して、三人の要求を呑む。

　しかし、俺に大したことを期待しないでほしい。

「それで？　俺に何してほしいんだよ」

「う～ん、そう言われるとあんまり考えてなかったな」

「じゃあなしという事で」

「それはダメっしょ！」

　慌てて俺を止めてくる、桜ヶ丘を見て本当にしてほしいんだなという事が強く伝わってくる。

「じゃあ、テスト終わるまでに考えるってことでどう？」

「まぁ、それなら……他の二人もそれでいいか？」

「いーよ」

「はい！　いいです！」

　しかし、これですんなりご褒美を上げても、面白くないなと俺は思ってしまった。

　こういう時でも、ゲーム的なことを考えてしまう、ゲーマの性だ。

「じゃあテストで全員が赤点とらなかったらにしようか」

「えぇ！　オタ酷くね？」

「それはちょっと話が変わってきます……」

「お前らなぁ……」

　冬島以外の二人が、騒ぎ始める。

　赤点を取りそうな二人が騒いでいるのは当然か。

「いいから、みんなならできるって信じてるから！」

「うげぇ……オタ意地悪だなぁ」

「幸也くん、性格悪いです」

「はっはっはっ、ご褒美だけをあげるのはちっとぬるいかなと思っただけだ」

　俺はそう言って、自分の弱さを正当化する。

　自分には大したことができないと、不安を押し殺すように。

「いけると思う？」

「当たり前だろ？　みんな頑張ってきたのは俺が一番知ってるからな」

「――――ッ、ふ～ん」

「なんだよその反応……」

　冬島らしくない反応をされ俺は、少し不安になる。

　なにかおかしなことを言ったのかと思ってしまう。

「別に、思ってるんだって驚いただけ」

「じゃあ、頑張らなかったのか？」

「いや、そういういわけじゃ」

「俺はみんな頑張ってきたと思うよ、その姿をこの目で見たからね」

　俺は冬島に堂々とそう言う。

　これは本心だ。三人とも一生懸命勉強していたのは俺が一番知っている。

「自信あるんだ？」

「俺、視力はいい方なんだよね」

「ふっ、オタクの癖に生意気なんだけど」

「別にオタクは関係ないだろ」

　そう言うと、ひらひらと手を振って、準備室から出ていく。

「どこ行くんだよ」

「もう帰るの、明日テストだし」

　冬島が帰るタイミングで桜ヶ丘や秋月も準備室から出ていく準備をしている。

「じゃあぼちぼち帰るか」

「はい、ありがとうございました～」

「ありがとねオタ！」

「はいはい」

　俺はそう言って、鍵を先生に返して正門から帰ろうとすると、辺りが薄暗い中、冬島がスマホを見ながら立っていた。

「何してるんだ……？」

「やっときた……おそい」

「な、なんだよ」

「今から時間ある？　一緒に帰らない？」

　は？　と言いたくなりそうだった俺は必死に口を押さえた。

　しかし、びっくりしすぎて開いた口が閉じなかったことは内緒にしておこう。