第17話 秋月が良いお姉ちゃんだなんてことは存在しない
「あれ? 私が一番乗り?」
「あぁ、今日は一番乗りだぞ、早いな」
「なんにもやることなかったからねー、他の二人は?」
「今日はあの二人は用事があって遅れるって言ってたな」
俺がそう言うと、少し寂しそうな表情をしながら座る。
「まあ私が一番ヤバいから、幸也くんに教えてもらえるいい機会だよね!」
「そうだ、そうだぞ? 本当にあと数日でテストなんだから」
「うんー、それでも明日アルバイト入ってるんだよね」
「秋月……」
俺が呆れるような声で言うと、秋月もわかっているといった表情でしょんぼりと微笑む。
「一つ聞いてもいいか?」
「聞きたいこと? いいよーなんでも聞いて?」
「なんでそんなにアルバイトしてるんだ? 何か欲しいものがあるとか?」
「ううん、ちょっと違うかな」
秋月はシャーペンを置き、俺の方をジッと見つめてくる。
俺は見つめられるのが弱いので、すぐに目を逸らす。
「幸也くんには兄弟とかいる?」
「いや、俺は一人っ子だよ」
「私はねー妹が二人と弟が一人いるんだ」
「そうなのか」
そう言うと、秋月はゴソゴソとバッグの中から、スマホを取り出し俺に写真を見せてくる。
その写真に写っていたのは秋月の妹と弟であろう人物が写っていた。
「可愛いでしょ~? 中二の妹と小学生の妹と弟がいるんだー」
「にぎやかで楽しそうだな」
「うん、喧嘩なんてしょっちゅうやってるけどね」
「秋月がか?」
俺が冗談でそう言うと、ムッと頬を膨らませて背中を叩いてくる。
「も~っ! 私はちゃんとお姉ちゃんをしてます!」
「悪いって……冗談ってやつ」
「そ、そんな……幸也くんが冗談を使うなんて」
「そんな驚くなよ」
俺が冗談を言ったことが秋月にとって驚きだったみたいだ。
「妹とか弟の誕生日とかさ、年齢が上がるにつれて欲しいものとかって高くなるじゃん……親はみんなの為に一生懸命働いてくれてて、誕プレ買う余裕ないっていうかなんというか」
秋月はそう言いながら髪の毛をくるくるを回している。
肩よりも上のボブに似た髪型の毛先がくるんとなる。
「大丈夫だ……伝わったよ」
「そ、そう? えへへ……ハッ! 勉強しないとだねっ」
「あ、あぁ……そうだったな」
「そうだよ! ほら、ぼけっとしてないで」
俺は勘違いをしていたかもしれない。
秋月という人物のことを……。
「いいお姉ちゃんなんだな」
「え――――」
「妹ちゃんたちは秋月がお姉ちゃんでよかったと思うよ」
「そ、そんなこと」
褒められることには慣れていない様子の秋月を横目に俺は「あるよ」と即答する。
「そ、そんなに褒められたって何にも出ないよ?」
「いいよ、別にそういうのを期待して言ったわけじゃないから」
「うぅ……そ、そうかい!」
「あぁ」
秋月は頬が真っ赤になって、耳まで赤くなっていた。
それを俺に見られると恥ずかしそうにそれを隠そうとする。
「頑張ってるな」
秋月はお姉ちゃんだが、俺は妹に見えてしょうがなかった。
(妹がいたら、こういう気持ちに襲われるのかな……)
「え――――く、くすぐったいよぉ~、それに子ども扱いしてるでしょ!」
「え? あ、あ、ごめん」
「別に嫌って訳じゃないけど、びっくりはするし、子ども扱いしてたらムカつく」
「し、してない! してない……」
俺は自分の行動にびっくりしていた。
無意識に秋月の頭を撫でていたのだ。
(ダメだ……今度から、ちゃんと自制しよう、女の子の髪の毛は命って聞いたことがある)
「なぁ秋月」
「ん?」
「頑張ろうな、テスト」
「もちろん――――ていっても私が一番危ないけどね」
そう言って苦笑いする秋月を見て、自分もやれるだけのことはやろうという気持ちになった。
俺は彼女らの先生であるのだから。
◆
「あ、秋月……ちょっと」
「どうしたの?」
「今時間あるか?」
「ちょっとなら」
翌日の放課後、秋月がアルバイトに行く前に教室で引き留める。
幸いにもクラスメイトはあまりこっちを見ていないようで、注目はされていない。
「これ……勉強の力になれたらって」
「プリント?」
「俺の自作で申し訳ないけどな」
「すっごーい、綺麗にまとめられてる」
俺は昨日帰ってから、三人分の勉強のポイントやテストで出る場所などをまとめたプリントを作った。
(まぁ、ほとんどノートの写しをコピーしたりしたものだけど)
「ありがとう!」
「プリントなら、休憩中とかもチラッと読めるだろ?」
「えへへ、嬉しいなぁ~これでバイト頑張れちゃうよ!」
「いや、勉強を頑張れよ」
そうツッコミを入れると秋月は笑いながら去って行った。
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