第13話 陰キャオタクにはプロポーズなんて存在しない

「オタ~? ゲームしようよ~」

「桜ヶ丘……勉強しに来たんじゃないのかよ」

「勉強もするけど、ゲームのリベンジしにも来た」

「そんな当たり前でしょみたいに言うなよ」


 桜ヶ丘は当然の様に話す。

 それに、当然の様に俺の家に来て居座っている。


「ほらっ、早くゲームするよ!」

「はいはい……ちょっと待っとけ」

「ふふふ、この間の私とは違うってところを見せてやる」

「なんだその噛ませ犬みたいな発言」


 俺は苦笑いしながら、飲み物を持っていく。

 その間、桜ヶ丘はトレーニングルームにこもってエイムの練習をしている。


「エイム練習とは……気合が違うな」

「当たり前っしょ、今回はガチだからね」

「おー怖いこわい」

「完全に舐めてるその反応がどこまで持つかな」


「う、嘘でしょ……2キルしかできなかった」

「まぁ、こんなもんだって」

「ほんっと、ムカつく!」

「もっかいやるか?」

「…………やる」


 俺がそう言うと、小さく頷きながら言ってくる。

 その姿に不覚にも可愛いと思ってしまった自分がいるが、これはあれだ雰囲気とかも相まってだから別に本気ではない。


「なんだよ~ジロジロみて」

「い、いや……別にってあぁ! ずるいぞ!」

「見てない方が悪い! 甘いねオタ」

「そっちがな」


 不意打ちをしてきた桜ヶ丘に対して俺はヘッドショット一発で決める。


「ち、ちーとってやつじゃん」

「お、俺をそんな卑怯なやつらと一緒にするな」

「まだ実力の差がありすぎるか」

「それはそうだな」


 悔しそうというよりも、満足していた様子だった。


(てか、さっきめっちゃ恥ずかしい決め台詞みたいなの言ってなかったか?!)


「じゃあそろそろ、勉強をするか」

「ん、そーしよ」

「じゃあお菓子でもつまみながらやるか」

「さんせーい! なんだけど、今日はアタシがお菓子作ってきたんだよねー」


 俺がお菓子を取りに行こうとした時、桜ヶ丘が自作してきたお菓子を取り出す。


「カップケーキか?」

「せいかーい! 結構上手にできたんだよねー」

「色々種類あるな」

「3つくらいだから、そんなにじゃない?」


 3つくらいでそんなと言う桜ヶ丘に恐ろしさを感じる。

 お菓子作りはしないので、とても大変なイメージがあるのだが……。


(それにしても、形といい、匂いといい美味しそうだ)


「チョコ、抹茶、プレーンかなー?」

「じゃあ抹茶で」

「渋いねー、けどアタシも抹茶は好きだよ」

「し、渋いのか……?」


 ギャルの価値観はあまりわからない。

 抹茶は渋いのだろうか。


「そんな見てないで、た、食べてみてよ」

「お、おう……」

「ど、どうかな?」

「…………う、美味い」


 甘すぎず、苦すぎず俺にとって理想の抹茶のカップケーキって感じだった。

 これを作れたら食べ過ぎる自信がある。


「マジ? よかったぁ~」

「不安だったのか?」

「もちもち! 当たり前でしょ!」

「そ、そうなのか」


 桜ヶ丘の反応が新鮮だったもので少し驚いた。

 「でしょ!」 とか「余裕っしょ」とかそう言う言葉が飛んでくるものだとばかり思っていた。


「オタが堂々としすぎなんだよ」

「そんな堂々って」

「自分の料理が美味しいと思ってたのかなぁ?」

「……不味まずかったか?」


 俺が桜ヶ丘にそう聞くと、慌てて両手をブンブンと振ってくる。


「ち、違くて! マジ美味しかったんだけど、からかっただけだからそんな悲しい顔しないでっ?」

「別に悲しくなんてなってるわけじゃない」

「そう? それならいいんだけど」

「でも桜ヶ丘のお菓子は他のも食べたいって思うな、普通に美味い」


 俺がそう言うと、桜ヶ丘はきょとんとした後、吹き出す。


(なんだ……? 俺なんか変なこと言ったか?)


「それって? みそ汁毎日作ってほしい的な」

「は、はぁ?!」

「ごめんね、オタ今は彼氏とかいいかなーって思うんだ、申し訳ないけど――――」

「だから! そう言う意味でいったわけじゃない! ただ他のやつも食べてみたいってことだ!」


 俺は慌てて桜ヶ丘の弁明をする。

 それを見て桜ヶ丘はより一層笑っている。


「出禁にするぞ」

「うそうそ……くっ、あははっ! ダメだ、面白すぎて死ぬっ」

「そんなんで死ぬな、てか馬鹿にしすぎだ」

「ふぅー、ごめんってば!」


 桜ヶ丘はそう言いながら、謝ってくる。

 本当に悪いと思っているのかと桜ヶ丘の顔を見ると、パチッと目が合う。


「ニシシッ、楽しいね?」

「…………べ、別に」

「えぇ~? 嘘だー」

「本当だし、楽しいとかないし」


 俺は口を尖らせながらそう言う。


「その割には、快く歓迎してくれるよねー」

「……うるさい」

「もー、またお菓子作ってきてあげるから許してよ」

「はぁー。お前は俺をからかいすぎなんだよ」


 そう言うと、桜ヶ丘はニコッと笑いながら口を開く。


「へへっ、オタといるとアタシが楽しくなっちゃうからかな?」

「――――ッ!」


 今のはまずいと思う。

 聞く人が聞けば、自分のことが好きなのではないかという錯覚するぞ。


(恐るべし……桜ヶ丘梨々香)


 しかし、自分のことが好きなんてことはない。

 友達としてとか、そういうことばかりだ。


 これは青春にみせかけたトラップだ。

 しかし俺は絶対に勘違いなどしない、俺も友達の一人として見ているからだ。


「まぁ、お菓子を作ってくるならば、出禁はナシにしてやろう」

「おっ、やったー! さんきゅ!」

「はいはい」

「つめたっ!」


 そんな長い茶番を繰り広げながら、俺は桜ヶ丘との勉強会を始めた。

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