第12話 陰キャオタクにご褒美イベントなど存在しない

「はぁ~、今日の勉強会もわかりやすかった、ありがとねオタ!」

「別にいいよ、仕事みたいなもんだし」

「ふふん、そっか! ミーはどーだった?」

「わかりづらい所とかあった?」


 俺は冬島に質問を投げかける。

 俺の勉強会の時、冬島は質問をするどころか、ほとんど頷いたりするばかりだった。


「…………った」

「え? なんて?」

「なんか悔しいけど、めちゃくちゃよかった」

「そ、それはどうも……」


 冬島はほんのり頬を赤らめながら、目を細めながら言って来る。

 それに俺は正直に言うと、照れてしまった。


(冬島って結構素直なんだよな……)


「あー! オタが照れてる!」

「て、照れてなんて……」

「うりうり~、ミーに褒められて照れてるぞー」


 桜ヶ丘が照れていた俺のことをからかってくる。

 そのとき、俺の頬を指で突いてくる。


 そのとき、腕に柔らかい感触が当たることは誰にも言うまい。

 なんでって? これが給料替わりみたいなもの――――。


 そこで、俺の給料タイムは終わる。

 冬島が桜ヶ丘のことを俺から引きはがす。


「サリーくっつきすぎ」

「えぇー……ここからが面白いのに」

「サリーがよくてもうちが嫌、それに……」

「それに?」

「オタクがいやらしい目で見てたから」


 まさか、桜ヶ丘を引きはがすだけでなく、俺に反撃もしてきやがった。


(いやらしいって……否定はしなけどしょうがなくないか?)


「オタ、アタシの身体に興味あるの?」

「べ、別に? ないんだが」

「あっはは! うそっぽーい」

「なっ……」


 俺はそんな桜ヶ丘に対して俺はそっぽ向く。

 すると、冬島は俺のことを睨むように目を見つめてくる。


 そこで俺はひゅっと背筋が凍るような感覚に襲われる。


(だ、だめだ……これ以上なんか変なことになったら、殺されるかもしれない)


「サリーの身体はオタクじゃなくても羨ましいとか、そう言う目で見てる人多いともうよ」

「ミーそれいっつも言ってくれてるけど、アンタも大概だからね?」

「え、そ、そう?」

「うん、それを自覚してないってのもねー?」


 桜ヶ丘はそう言いながら冬島のことをジロジロと見ている。

 そしてなにやらニヤリと悪い笑みを溢した次の瞬間――――。


 桜ヶ丘が冬島の胸を揉み始めた。

 柔らかそうな、冬島の胸が桜ヶ丘の手に揉みしだかれている。


(桜ヶ丘も言っていたが、冬島も桜ヶ丘には負けるがいい物を……)


「ちょ……サリーや、やめっ」

「えーい、ホントミーのおっぱいは柔らかいなぁ」

「こ、この!」

「え、あ、ちょっまじ!?」


 と、今度は冬島が桜ヶ丘の豊満な果実を揉み始めた。

 たわわに揺れるその果実は何とも見ていて飽きというものを教えないものだと感じた。


「本当に、サリーのは大きいし重いね」

「お、重い言うなぁ……」

「ほら、こんなにずっしり」

「うっさいわぁ!」


 桜ヶ丘も冬島もお互いが揉み合って体力を消費したのか、はぁはぁと息切れを起こしている。


(なんていう、ご褒美なんだ……こんな陰キャオタクの俺にこんなイベントがあるとは思っていなかった)


「あ、ごめんオタ、もう終わったから帰ろ」

「あ、いや? むしろありがとうございます」

「なんのお礼?」

「こちらの話です」


 俺はこの一時の時間で少し漢になれたと感じた。

 陰キャオタクの童貞が一瞬遠のいた気がした。


「じゃあアタシこっちだからじゃあね~」

「じゃあね、サリーまた明日」

「ん! また明日オタもまたねー!」

「お、おう……ま、また」


 桜ヶ丘にそう挨拶すると、走って家に向かって消えていく。


 となると、冬島と二人きりなのだが、またこの状況が続くのは正直辛いと感じてしまう。


 そんなことを考えていたら、冬島が口を開いた。


「さっきのサリーが抱き着いてた時、胸の感触味わってたろ」

「あ、味わってただなんて」

「いいよ隠さなくて知ってるから」

「く、くそ……」


 俺のことを少し軽蔑した目で見てくる。


(そんな、ごみを見るような目で見るのはやめてくださいっ、俺の心が傷ついてしまいます)


「オタクのくせに生意気」

「あれはオタク関係ないだろ」

「うるさい、女子の胸の感触わかって嬉しいとか思ってんだろ」

「冬島だって桜ヶ丘の触ってたし、触られてたろ」


 俺がそう言うと、冬島はピタッと止まって、頬を染めながら顔を近づいてくる。


「あんた、それ他の人に言ったら許さないし、早く忘れろ」

「いやー、あれを忘れるのはちょっと無理……」

「うるさい、忘れるのわかった?」

「は、はい……」


 これ以上なにか口答えしたら、パンチの一つくらい飛んできそうで怖かった。


「忘れなかったら凄いことするから」

「凄いこと?」

「忘れるまで頭を叩いて、忘れても叩いて、気絶しても叩く」

「あは、ははは……それはもう死んでるんじゃないか?」


 冬島は恥ずかしそうにプイっとそっぽ向く。


「てか、いつまでついてくるの? ストーカー?」

「な、そ、そんなわけないだろっ!」

「なんだ、うちに気があってついてくるのかと思った」

「そ、そんなことあるわけ……」


 ここはっきりとないと言い切れなかったのは、多分偶然だ。

 別に冬島が美人でスタイルがいい、女の子だったからじゃない。


「うざっ、なんかうちがフラれたみたいでムカつく」

「別にフッたわけじゃ……」

「ふふっ、知ってるし、ばぁ~か」

「――――ッ!」


 その時の俺を小ばかにするかのようにくしゃっと笑いながら言ってきた。


 俺はこの時の冬島の表情が頭から離れなかった。

 

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