第7話 俺がギャルとゲームを一緒にするなんて存在しない

「もう数字いやぁ~」

「まだまだ始めたばかりだぞ」

「いや、もう1時間はやってるんですけどっ!?」

「あと2時間は余裕だろ」


 俺がそう言うと、桜ヶ丘は少し顔が引きつっているように見えた。


「あ、アタシはオタじゃないからそんなに集中力が続かないの!」

「そ、そうなのか……じゃあすこし休憩するか」

「マジ? やったー!」

「その代わり、休憩終わったら今度は違う教科をやるからな」


 俺が念のために釘を刺すと、桜ヶ丘はニシシと笑いながら「わかってるよ~」と軽く言ってくる。


(本当にわかってるのか……? 勉強を前よりしていると言っても結構ヤバいと思うんだが)


「ねぇオタ~? このゲームやってみてもいい?」

「ん? あぁ、いいぞ」

「あ、マジ? じゃあお言葉に甘えて」

「ちょっと待ってろ、起動させるから」


 そう言って、桜ヶ丘が指さしたゲームはFPSで人を打ち倒すゲームだった。


「操作方法とかわかる?」

「ちょっとしかわかんないかも」

「おっけー、基本操作は教える」

「ん、あんがとー」


 桜ヶ丘にコントローラを渡して、このボタンはこうするとか、こことこのボタン同時押しで、こういうのができるなどを教える。


 桜ヶ丘の吸収力はかなりのもので、基本操作を覚えただけで結構、世界のプレイヤー相手に戦えているのが凄い。


「ビギナーズラックだというのに、これはすごいな……」

「えへへ、でっしょ! アタシゲームはうまいんだよねー」

「そうだな、これは相当上手な部類に入るな」

「ふふん、これはもうオタを抜いちゃったかにゃ?」


 と俺の顔を覗き込みながら、ニヤニヤした表情を向けてくる。

 これは宣戦布告ということで捉えていいんだよな?


(なんだこの、早くかかって来いよと言わんばかりの表情は)


「桜ヶ丘と俺の実力はまだまだ天と地ほどの差があるよ」

「――――なっ! じゃあやってみなよ!」

「いいだろう、元ランカーの実力を見よ」

「ふん、その元ナントカの誇りをくしゃくしゃにしてあげよう」


 俺はコントローラを持ち上げ、二人で対戦のマルチに切り替える。


「トラウマにならないようにな、手加減できないから」

「ふん、オタが粋がれるのもそこまでだよ」


 ゲームが始まる前の会話はそれが最後だった。

 ――――まぁ、結果は俺の圧勝だった。


「――――くそ、強すぎっしょ」

「だから言ったろ? 天と地の差があるって」

「んもう、それでもこう……なんか、あぁー! もうムカつく、もっかい!」

「いいだろう、何度でも来い」


 俺たちはまたゲームの世界にのめり込む。


「あ、くそ! そこ当たってないでしょ!」

「当たってるよ、ちゃんとヘッドだ」

「当たってない、バグっしょ」

「弱い犬ほど良く吠える」

「アタシ犬じゃないもん」


 という、小学生並みの言い合いをゲーム中にしている。

 手加減などは一切してないため、ちゃんと出会って2,3秒で倒している。


「あー……今日はもうダメだー」


 ボスンと横たわる桜ヶ丘を見て俺もコントローラーを置き、時間を確かめる。


(そろそろ、勉強を……って、もうこんな時間かよっ!)


 休憩を30分ほどで終わらせようとしていたのに、1時間30分も時間が経っていた。


「ご、ごめん桜ヶ丘、時間が経ちすぎてた」

「ん? あー、いーよ別に」

「いや、良くはないだろ」

「あははっ、そっかそっか、アタシ勉強をしに来たんだった」


 桜ヶ丘のその笑った顔は無邪気な女の子そのものだった。


「とりあえず再開するか」

「ゲームを?」

「勉強に決まってるだろ」

「えー、やだなー」


 ブーと唇を尖らせながら文句を言っている桜ヶ丘を横目に、俺はやるぞと言わんばかりの圧を教科書を積み上げて出す。


「んげ……今日もしかして、あとこんなにやるの?」

「まだお昼でもないしな、このくらいはできる」

「もーむりだよー」

「途中休憩も入れつつ、やるから安心しろ」


 それを聞いた桜ヶ丘は顔を緩ませながら、近づいてくる。


「ゲームもする?」

「いや、それはどうだろうな」

「えー、なんでだー」

「勉強が進んでたら考える」


 そう言うと、桜ヶ丘はすこしやる気になったのか、フンスを鼻息を荒くしていた。


「オタ、何してるのやるんでしょ?」

「な、俺はお前を待ってたんだ」

「ニシシッうるさーい、早く教えてよ、せんせー?」

「――――なっ、それで呼ぶな」


 俺をからかうように笑いながら話すその姿はまさにギャルとしか言いようがなかった。


 俺たちはまた勉強会に戻った。

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