第6話 俺がギャルと家で二人きりとかそんな事実は存在しない

 俺はベッドに横になり、今日会ったことが夢じゃないことを確かめていた。


 そう、桜ヶ丘からピロンッとメッセージが届いていた。


サリー『オター? ちょっちいい?』

熊谷幸也『どうした?』

サリー『返信はや笑』

熊谷幸也『別にいいだろ、何もないならゲームするから』

サリー『ごめんごめん、あのさ、もう週末じゃん? 勉強会したいなって思って』


 珍しい、桜ヶ丘から勉強会をしようと持ち込まれるとは。


熊谷幸也『なんだ、何が目的だ』

サリー『実はさー、今度赤点2つ以上あったら、遊びに行くの禁止とか言われて塾活かされる可能性が……』

熊谷幸也『今から塾行く人は多いんじゃないか?』

サリー『私は嫌なの!』


 別に勉強会をやるのは構わないテスト前だし、俺は焦るって程でもないからな。


熊谷幸也『わかった、場所はどこでやるんだ?』

サリー『オタの家でお願いできない?』

熊谷幸也『別に俺は構わないけど』

サリー『じゃあ決まりで!』


 男の家に来ることに対して抵抗ないんだな……。

 そもそも、男として見られていないのか。


(まぁ実際に自分でも男としては見られないだろうなと感じてるしな)


 俺はそんなことを考えながら、家の片づけを行う。


「ごめんごめんっ! 遅くなっちゃって」

「いや、大丈夫だけど……」

「ん? どしたん?」


 桜ヶ丘は学校にいる時とはとても違う雰囲気だった。

 髪の毛はとてもくるくるとしていて、いい匂いがすこし離れていてもわかる。


(結構な量の香水でもつけてるのか……?)


「あ、そうだ! これ、お邪魔するから持ってきたんだけど……オタの両親は今日いる?」

「……いないよ、今日は帰ってこない」

「あ、そーなんだ、じゃあオタに渡しておくわ」

「どうも……」


 渡された紙袋からはお菓子のような物が覗いている。


(これは、どらやきか?)


 俺は派手な見た目してる割には洋菓子とかじゃないんだなと思った。

 ただの俺のとてつもない偏見だけど。


「あ、もう入っても大丈夫な感じ?」

「あ! あぁ……大丈夫」

「本当に? エッチな本とかあったりしない?」

「――――ッ! んなもんねぇよ!」


 俺が大きな声を出すと、桜ヶ丘はシーっと人差し指を立てて注意をしてくる。


「オタ~近所迷惑になるよ」

「そ、それは桜ヶ丘さんがからかうから……」

「いいわけしなーい」

「ぐ……はい」


 ケタケタと笑う桜ヶ丘について行くように俺も家の中に入る。


「おぉ~、ここがオタの家かぁー」

「面白くなくてすまんな」

「いやぁ? そんなことないけど、まぁある程度予想通りだけどね」

「そうか」


 桜ヶ丘はそう言って、ポスンっとテーブルがある近くへ座る。

 勉強をするのかと思ったら、ずらっと並んでいるゲームを見始めている。


「オタって本当色んなゲーム持ってるんだね」

「そこで全部じゃないけどね」

「えっ!? それガチ?」

「うん、自分の部屋にもっとあるよ」


 そう言うと、目をキラキラさせている桜ヶ丘が俺のことを見ている。


(み、見てみたいという視線がとても送られてくる……)


「いや、……」


 俺は今重大な事に気が付いたかもしれない……。

 もしかして……今日は二人きりなんじゃ。


(かぁ~~~、なんで俺は気づかなかったんだ? てか桜ヶ丘さんも気づいていないのか?)


「あ、あの……」

「どしたん? さっきからオタ変だよ」

「大丈夫、変なのはいつもだから」

「ぷっ、なにそれウケる」


 今はいいんだそんなこと、自分が変なのは承知している。


「そ、そうじゃなくて……き今日さ親がいなくて、俺と桜ヶ丘さんの、そのふ、二人きりなんだけど」

「うん、さっき言ってたし知ってるよ?」

「だからその、男との俺と二人きりで不安じゃないの?」

「…………アハハッ! そんなこと気にしてたの!? 大丈夫っしょ」


 お腹を押さえながら笑っている、桜ヶ丘を見て本当に男として見られていなかった事実に少しショックを覚えた。


「てか逆にオタは今まで気づかなかったってこと?」

「いや……男の家に来るの抵抗ないのかなっては思ったけど」

「別にそれは友達なんだしないよ」

「そっか……」


 友達、そう言われて素直になにか心がフワッとした気がした。

 まぁ、気のせいだと思うが。


「てかなにぃ? オタのくせにアタシの身体とかに興味あんの?」

「――――ッ! そ、そんなものあるわけ……」


 そう言われてしまっては意識してなかったものも、してしまう。

 桜ヶ丘の今日の服装では出るところは出て、引っ込むところは引っ込むという、なんともラノベのヒロインらしい体型だった。


「うわ、オタの目つきがエッチなんですけど」

「だ、だからそんなんじゃないってば!」

「オタ必死すぎ」

「な、わ、笑うなよ……!」


 またも、俺の反応を見て桜ヶ丘はお腹を抱えて笑っている。


(てか、いつになったら勉強始めるんだよ……)


 このままではただ女の子と家で一日過ごすという、俺の生活としてはあり得ない出来事が待っている。

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