第20話 喧嘩
「…………ねぇ、今どこ向かってるの?」
「ふっふー、内緒。」
「…………。」
僕は丸くなったままルカに抱えられて運ばれている。
息をするだけで肺がちりちりするため、バスタオルの中に顔を埋めて寒さを凌いでいる。
僕がそんな風に寒がっている横で僕以外の3人はてくてくと歩いているのが驚きだ。
みんな、寒く無いのかな…………。
僕はバスタオルの中からひょっこりと顔を出して周りを見ようとした。
すると一瞬周りを見ることはできたのだけど、すぐに真っ暗になった。
…………どうやらルカが僕の目を塞いでいるようだ。
「ちょっと、見えないんだけど…………。」
「見えちゃったらせっかくのサプライズが台無しになっちゃうでしょー?」
「むぅ。」
別にここまで言っちゃってたらもうどの道サプライズにならないと思うんだけどな…………。
僕はもう一度バスタオルの中にくるまり、ふくれっ面をした。
僕は今この状況に憤りを感じていた。
しかし、ルカの腕に抱えられている身の上でそれを言葉に出来るはずもなく、ただ悶々としながら僕は運ばれ続けた。
しばらくすると、僕の耳に不思議な音が聞こえ始めた。
この音は…………水?
とても大きな音で水がはねている音が聞こえる。
そして、それとは別に複雑な轟音がなり続けている。
なんだか嫌な感じはしない。
「お、もーそろそろだね!」
「くふふ、あれ見たらメグ絶対に驚くぞー?」
「まー、何気に僕も見るの初めてだからちょっと楽しみだなー。」
うーむ、今行っている場所には何があるんだろう。
アニは絶対に驚くとか言ってるから凄いものなんだとは思うんだけど…………。
またちょっと経った頃、先程からなっていた音が徐々に大きくなっていった。
どうやら目的地はこの音の発生源みたいだ。
もうしばらくすると、ルカ達の足音が止まった。
「メグ、着いたよ!」
ルカがそう言ったので、僕はバスタオルから顔を出す。
冷たい風が僕の顔をいじめてくる。
僕はそれに耐えつつも周りを見渡してみた。
しかし、特に変わった様子は無い。
強いて言うならば、雪がチラホラ降っており、それが地面に積もっているくらいだ。
僕が不思議そうにキョロキョロしていると、ルカ達は少し混乱しているようだった。
「ありゃ、あんまりびっくりしてない…………?」
「…………そうみたいだねー、こんなに凄い景色なのにねー?」
ルカとサナは少しがっかりとした様子だった。
しかし、1番がっかりしそうだったアニは何も話さず、ただ黙っていた。
…………そんなにショックだったのだろうか?
先程まで自信満々に僕の事を驚かせるって言ってたからな…………。
僕は何だか申し訳なくなり、アニにフォローの言葉をかけようとした。
しかし、その必要は無かった。
「ねぇ、アニ、なんかごめ…………。」
「そうだ! 思い出した!」
「…………え?」
僕はアニが落ち込んでいると思っていたが、それは勘違いだったみたいだ。
アニはいつも通りの弾けるような元気な声で喋りだしていた。
…………僕の心配を返してくれ。
「そういえば、今メグは近くのものしか見えないんだった!」
「あっ、そっか。」
そういえばそうだった。
元々遠くまで見えていた記憶が無いから完全に失念していた。
僕は今負担を減らす為に意図的に近くしか見えないようにしているんだった。
前までは遠くまで見たら負担が大きかったけれど、そこ頃と比べて今はかなり慣れたから、ちょっとぐらいなら遠くを見ても大丈夫かもしれない。
僕はそう思って遠くを見ようとするが、突然目を塞がれてしまう。
…………ルカだ。
「ちょっとアニ! まだどのくらい使えるかどうかも分かってないのにいきなり遠くを見るなんて危険でしょ!?」
「大丈夫だって、あたしが使ってた頃だったらこんくらい余裕だったからさ!」
「アニとメグは違うでしょ!?」
「ちょっとちょっと、2人とも喧嘩しないでよ!?」
僕の事を巡っての喧嘩だ、少しむず痒い感じがする。
けれども、喧嘩はして欲しくない。
2人とも僕の大切な人なんだ、仲良くしていて欲しい。
「僕は別に見れなくても大丈夫だからさ、ね、喧嘩しないでよ…………。」
「「はっ!?」」
僕のその一言に2人はハッとしたような反応をした。
というか言葉に出してはって言った。
「…………ごめん、私メグの気持ちも考えないで心配した気になってた…………。」
「あ、あたしも、もっとメグのこと考えてればもっと慎重になってたのに…………ごめん。」
2人は口々に謝りだした。
「…………2人とも、謝るのは僕に対してじゃないでしょ?」
「…………ごめん、ルカ。」
「私もごめん、アニ。」
「…………ふふ、一件落着だね!」
2人とも仲直り出来たみたいで良かった。
僕は満足気に頷いた。
これで全部解決だね!
「…………まだ解決してない問題あるよねー?」
「「「え?」」」
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