第19話 薬



「…………どこにいるか分からないって……どういう事?」


「さっき歩いていた所ってずーっと同じような平原が広がってるところだったからさー、さっきやせいせいぶつに追いかけられた時に方向がわかんなくなっちゃったんだよねー。」


「そうなんだ…………。」



僕は青い顔をしながら話を聞いていた。


今居る場所が分からないのなら地図を使っても意味が無いし、明らかに違う方向に進んでいたとしても気付くことが出来ない。


何ならここら辺を一生彷徨う事になるかもしれない…………。


そしたら僕の目もみんなの傷もそのままだ。


僕があわあわしていると、そんな様子を見たサナが笑った。



「ふふふ、そんなに慌てなくても大丈夫だよー。」


「だだ、だって、このままじゃっ!」


「あの草原の周辺は東南西北全部特徴的な場所だから、とりあえず草原を抜けたらどの方向に行ってるか分かるんだよね。」


「…………ふぇ、そうなの?」



よ、良かった、じゃあ僕達は一生彷徨う事は無いのか…………。


僕は胸をなで下ろした。



「じゃあ、今はどっちの方角に向かってるの?」


「今は……北だね。北に行くほどどんどん寒くなってくから、分かりやすいんだよね。」


「へー、だからこんなに寒かったんだ。」


「今はアニとルカがあるものを探してくれてるから、僕はメグを見守ってたんだよねー。」


「あるものって?」


「んー、ないしょー。」



うぅ、今は僕しかからかう相手が居ないからか、サナが全力で僕にイタズラを仕掛けて来ている…………。


まぁ、僕は今サナに見守られながらぬくぬくしている訳だから、この境遇を甘んじて受け入れよう…………!


最後に僕は、僕の身に何があったのかサナに聞いた。


サナは何かを少し考え、教えてくれた。



「えっとねー、やせいせいぶつから逃げる時にルカが色んな道具とかを使って全速力で逃げたんだよー、その時にメグが起きていたら危ないから、眠り薬を飲ませてその間にここまで来たんだよねー。」



…………そうだったのか。


僕は目が見えないから何かがあった時にトンチンカンな動きをしてしまってルカ達に迷惑を掛けてしまうかもしれないし、妥当な判断だろう。


だけど、やっぱり悔しいな。


僕が足でまといになるのは十も承知でついて行っている訳だけど、それでもやっぱり役に立ちたいという気持ちは心のどこかにある。


そんな事考えるのすらおこがましいことは分かってるはずなんだけどな…………。



「…………まぁ、メグに怪我がなくてよかったよー。」


「うん、ありがとう。」



僕の中ではやっぱりルカに対する信頼が厚いからか、感謝の気持ちもルカにばかりいってしまっている。


だけど、アニやサナだって僕を幾度となく助けてくれているということを忘れてはならないだろう。


僕が感謝の念をサナに送りながらじっと見つめると、サナは不思議そうにコテっと首を傾げた。


…………伝わって無さそうだ。


僕達は極寒の中で温まりながら少し時間を潰した。


すると、突然外から足音が聞こえてきた。


僕はビクッと跳ね上がり、体を強ばらせた。



「ふふふ、大丈夫、アニとルカが帰ってきただけだよー。」



そう言ってサナは僕の頭を優しく撫でた。


…………分かってたもん、ただ、石橋を叩いて渡るみたいな事で、用心するにこしたことはなんというか…………。


あぁ、もう、顔熱っついなぁ。


僕は外の温度とは反対に急激に火照る頬を冷えた手で鎮火しつつルカ達が来るのを待った。



「あぁっ、メグ起きてる!」


「っ!? ほんと!?」



僕が起きているという知らせを聞いてかルカは一瞬で僕の元まで駆け寄ってきた。


そして、いきなり僕の体をぺたぺた触りだした。



「ちょ、大丈夫だって! 何ともない!」


「だ、だけど、いきなり薬飲ませちゃったし、副作用とか…………。」


「全然大丈夫だから、心配しないで! 僕の為にやった事なんでしょ? だったら問題無いよ。」


「うわぁん、ありがとうメグー!」


「もぉ、いいって…………。」



本当に感謝を伝えたいのは僕の方なんだよなぁと、思いながら僕は抱きついてくるルカから離れようとする。


しかし、ルカは一向に抱き着くのをやめない。



「はいはーい、お二人さん、イチャつくのはやめて本題にはいりましょーかー?」


「ちょ、イチャついてるんじゃなくて……。」


「あぁ、そうだったね!」



サナの本題に入ろうという一言でルカは僕の事をあっさりと離した。


…………むぅ、何だか納得がいかない。


そんな僕の様子はよそにみんなは話し始めた。



「それで、ここに戻ってきたってことは…………見つけたんだねー?」


「ふっふっふー、このアニが着いてるんだから、あったりまえでしょ!?」


「ふふふ、そうだねー。」



…………僕はまたもや話についていけずにいた。


みんなは目が見えるからか、目が見えない僕とは少し話が噛み合わない時があるのだ。


少しづつ僕の頬が膨らんできた頃、そのことに気がついてか、ルカが悪戯っぽく笑った。



「じゃあさ、どうせだからさ、今から見に行かない?」



…………何を?

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