第11話 身体検査
ひとしきりお札を拾い終えた僕達はまたおまわりさんが戻ってきてしまっても厄介なのでそそくさと銀行からは立ち去り、また温泉宿に戻った。
温泉宿へ向かう途中のあの刺激臭が僕達を極楽へと導く道筋に感じてしまう。
なんたってこれから僕達は温泉に入ることが出来るんだ、浮かれてしまうのもしょうがない。
しかし、そこで僕はひとつの事に気がついた。
「あれ、おかみさん戻ってきて無いんだね。」
「…………そうだね、まぁ、おかみさんが居たら温泉に入れないかもしれないし、今のうちに入っちゃおうよ!」
「うん、そうだね!」
色々疑問に思うことはあるけれども、そんなのもうどうだっていい。
僕はルカに連れられ温泉宿の更に奥へと進んでいく。
そして、ある時を境にムワッとした湿気が辺りを包み始めた。
それと共に僕のテンションも急上昇していく。
独特な刺激臭の匂いも今では何だかいい匂いに感じる。
その時、ルカが歩みを止めた。
「みんなストーップ! 温泉に入る前に身体検査だけしちゃおうよ! 傷とかがあったら大変だしね!」
「んー、そうだねー、僕あれあんま得意じゃ無いんだよねー。まぁ、仕方ないからやるけどさー。」
「…………うん、僕もあれくすぐったくて苦手。」
前回やった時は必死に我慢したけど、やっぱりくすぐったいのは少し苦手だ。
「ふっふっふー、あたしは全然平気だぞ!」
「…………アニは痛覚がないからでしょー? 僕達はちゃんと感じてるからくすぐったいんだよー。」
「そーだそーだー!」
「じょ、冗談だよ、そこまで言わなくても…………。」
「あはは、じゃあやってくよー!」
ルカはみんなの体をぺたぺたと触っていく。
「うっ、くっ、くすぐったい…………。」
僕はくすぐったいけど何とか我慢していた。
「ふにゃ、ちょ、ルカ、も、もっとゆっくりやってー!」
サナは僕よりくすぐったいのが苦手なのか僕よりもくすぐったがっていた。
「ふはははは! みんなそんなにくすぐったいのかー!? あたしは全然くすぐったくなーい!」
「…………アニ、痛覚を直したら覚えていてねー?」
「ひぃっ!? さ、サナごめんって!」
アニはやはりくすぐったくないようで、くすぐられるのが苦手なサナに怒られていた。
あんまり見たことの無いサナの様子が見れてちょっと面白い。
「よし、みんな大丈夫! じゃあ私の身体検査はサナにやって貰うかなー。」
「…………分かったよー。ふふふ、覚悟してねー。」
サナはルカに触られてすごくくすぐったがっていたからか思いっきりルカに触り始めた。
「ふふふ、効かないよー。」
「ええっ、なんでー?」
…………ルカもくすぐられるのは大丈夫なんだね。
ルカのくすぐったがっている姿もちょっとだけ見たかったから残念だ。
「むー、ここは? こっちは?」
「…………き、効かないよー!」
あれ、この様子は…………痩せ我慢してる?
「サナ、もっとやっちゃってよ!」
「…………了解だよー。」
サナは僕の指示を聞いてルカの色んなところをくすぐっていた。
「ちょ、まって、それ以上はっ、くっ、あははははっ、やめてっ、くすぐったい!」
やっぱりルカもくすぐられるとくすぐったいみたいだ。
さっきまでのはやせ我慢だったみたいだ。
ふふふ、満足。
「ちょ、もうやめて! 謝るからー!」
「ふふふ、ルカも大丈夫そうだねー」
サナはそう言うと手袋をピッピッっと外すような仕草をした。
ルカは僕の横に座り、大きなため息をついた。
「いやぁー、酷い目にあったよ、わたし何も悪いことして無いのに…………。」
「ごめんごめんー、ついねー。」
「はぁ、けどまぁみんな大丈夫そうで良かったよ。」
僕たち3人は散々くすぐったくなった為か少しぐったりとしていた。
「よっし、じゃあみんな、入ろっか!」
ルカは僕の事を持ち上げてくれる。
「ちょっと待って、このままだと転んじゃって危ないから、お風呂では僕自分で歩くよ!」
「…………確かに危ないよね、分かった、じゃあ私の腕にしっかり抱きついて歩いてね、メグは三半規管もちょっとやられちゃってるからまだ1人では歩けないだろうかね。」
「…………うん、分かった。」
僕は目を見えるようにし、ルカの腕に抱きつき、体を寄せる。
「じゃあ立つよ、いち、にの…………さんっ!」
僕はルカの合図で立ち上がった。
「大丈夫そう?」
「うん、何とかね、ありがとう、ルカ。」
「なんもだよ! じゃあ行こうか!」
僕たちは1歩1歩歩き出して、扉を開ける。
ひゅぅっと涼しい風が吹き抜け、それと共に濃厚な温泉の匂いが漂ってくる。
「わぁっ! これは露天風呂か!?」
「うん、そうだねー。」
「おかみさんが居たおかげで凄い綺麗だし景色も良い…………最高だね!」
僕は景色は見えないけれど、この最高の雰囲気は伝わってくる。
「やっとだね、もうこのベタベタの体ともおさらばだ!」
「メグは1番楽しみにしてたもんね! 本当に来れて良かったよ!」
「うん!」
僕達はそのまま温泉へと向かっていった。
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