第12話 温泉




僕はルカに手を引かれながら温泉に近づいていく。


温泉は他のものとは違い何か不思議な感じの見え方がした。


他のものはシルエットがあるのだけど、温泉はただその場所が揺らいでいるように見える。


温泉に近ずいていくと少しづつその温かさを実感する。


とても、心地の良い温もりだ。



「よぉし、じゃあ、入るよ。」


「う、うん。」



ゆっくりと足を下ろし、温泉のゆらぎへと僕は入っていった。



「あつ…………。」


「えっ、大丈夫!?」


「あ、うん、丁度いいくらいだよ!」


「…………そっか、良かった。」



僕は更に歩みを進める。


足のつま先から踵、ふくらはぎから腰、どんどんと温かさが伝わっていく。


自然と口から小さなため息が盛れる。


肩まで浸かり、全身が多幸感に包まれる。



「あぁ、何これ、すっごい気持ちいい…………。」



前回入った温泉よりも温度が高く、全身がちりちりするが、それもまた気持ちがいい。


温泉のその熱さが僕の身体を優しく揉みほぐしてくれているようだ。



「うーん、温かいな!」


「そだねー。」


「メグ、気持ちいい?」


「…………あぁ、うん。気持ちー。」



僕は気持ちよすぎてルカの話を話半分で聞いてしまっていた。


スーッと腕をなぞると、先程までの少しざらついた感じは鳴りを潜め、サラッとしていた。


体のベタベタした不快感も不思議なくらい消えていく。



「ふぅー、あ、そうだ、ルカ、この温泉はあの病気を治すっていう温泉だった?」


「…………残念だけど、違うみたい。」



まぁ、そうだろうね、特に目が見えるようになった感じもしない。


それに、こんなにすぐに見つかるとは思っていなかった。


見つかってしまえばみんなとの旅も一旦終わりになってしまう。


それで記憶が戻って元いた場所に帰るとしたらもう皆ともお別れになってしまう。


僕はみんなの方を向いた。



「なぁ、サナ! 一緒に端っこまで泳がないか!?」


「んー、温泉で泳ぐのはマナー違反だよ?」


「むー、そうなのか…………。」



アニとサナはいつも通り仲睦まじく話している。


僕は横にいるルカの方を見た。


ルカとは今手を繋いだまま温泉に入っている。


僕はもう一度ぎゅっと手を握り直した。



「……? どうしたの?」


「…………ううん、なんでも無い。」



僕はルカの方に持たれかかった。



「ねぇ、ルカ。」


「…………なに?」


「改めて、ありがとう、これからもよろしくね!」


「…………ふふ、うん、分かったよ。」



そう言うとルカはザバァっと言う音を立てて立ち上がった。



「よぉし、みんな! 私はここに宣言します!」



ルカは拳をグッと突き上げてこう叫んだ。



「私はメグ、アニ、サナ、そして私、全員の怪我と病気を直すことを誓います!」


「あたしも誓うぞ!」


「僕もー!」



みんなが口々にそう言ってくれた。



「……僕も、僕も出来ることは少ないけど、出来る限りみんなの役に立てるように頑張るよ!」



僕もみんなと同じようにそう誓った。


少し僕の顔の周りに水分が増えた気がするが、きっと気のせいだろう。


その時、突然立ち上がったからか少しクラっとした。


ルカが支えてくれたおかげで倒れはしなかったが、まだ少しフラフラしていた。



「うっ、ごめん、目を使いすぎちゃったみたい…………。」


「うん、大丈夫だよ、温泉でのぼせちゃったのもあると思うし、無理しないでよ。」



「ありがとう、じゃあ僕もう上がろうかな。」



本当はもっと入っていたかったけど、この体調じゃ少し厳しいだろう。


僕はルカに支えられながらお風呂から出た。



「まだフラフラするんだったら遠慮なく休んでいいからね?」


「うん、ありがとう。」



僕はお風呂から出てすぐの所にある板のような場所に座った。


そして、ルカもその隣に座ってくれた。



「ほら、私の膝の上に頭乗っけていいよ。」


「う、うん、ありがとう。」



僕は素直にルカの誘導に従って横になる。


そして、ルカに撫でられながら僕は意識を落とした。







――――――――――





その時僕は変なものを見た。


何故かその時は僕にが戻っていて、周りに何があるのかがはっきりと見えた。


僕はよく分からないけどとても綺麗な白い石のようなものの上に座っていて、何かを待っていた。


目線の先にはプラプラと動かされている足があった。


これは、僕の足だろうか?



「あ、お待たせ!」



その時、僕の知らない少し低い声が聞こえた。


全く覚えていないはずなのに何故かその声は少し懐かしさの感じる声だった。


僕の視点は足からその声の主へとシフトする。


しかし、そこで僕の視点に酷いモヤがかかる。



「もう、本当にーーーーは時間にルーズだよね!」



僕は僕の意思ではなくそう言った。


その人の名前の部分は何故か聞こえなかった。


不思議だったのが、僕は怒っているような声を上げていたのに全く嫌な気分では無いことだ。



「ごめんごめん、ちょっと用事があってさ…………。」


「まぁいいよ、早く行こ!」


「……うん、わかった。」



その声の主がそう言うと僕は勢いよく立ち上がった。



「痛っ!?」



僕は頭に激しい痛みを感じでフラっとしてしまった。


そして、倒れそうな僕をその声の主が支えてくれた。



「大丈夫!?」


「うん、何とか、それより早く行こうよ…………。」



僕はそう言ってその声の主の腕を掴んで歩き始めた。

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