第10話 作戦
温泉宿に戻ってきた僕達はまたおかみさんに話しかけた。
「イラッシャイマセ、イラッシャイマセ、ヨンメイサマデスネ、シュクハクデスカ? ソレトモ、ヒガエリデスカ?」
「えーとね、日帰りで!」
ルカは前回とは違い迷いなくそう答える。
「カシコマリマシタ、ヨンメイサマデ2200エン二ナリマス。」
「うんうん。」
ルカは自信たっぷりでおかみさんにこう言い放った。
「お金は…………ここには無いから取りに行ってくれないかな!? えっと、ここなんだけど…………。」
ルカはそう言って地図をおかみさんに見せた。
そう、ルカはおかみさんに銀行までお金を取りに行ってもらおうという算段みたいだ。
僕ですら無理なんじゃないかと思うような作戦だが、ルカ曰く、あのおかみさんちょっと壊れてるみたいだし、多分大丈夫との事だ。
しかし、最初は無理だと思っていたが、どうやらそうでも無いみたいだった。
ルカの言葉を聞いたおかみさんはパタリと喋らなくなり、その代わりにウィーンという謎の音を上げだしていた。
「えーっと、これは大丈夫なの?」
「…………多分。」
ルカも少し不安になってきたのか、声音が暗くなり始めた。
次の瞬間、おかみさんはガシャンガシャンという音を鳴らし始めた。
「うわぁ、暴れ始めたよ、ヤバいって!」
「に、逃げた方がいいかなー?」
「そ、そうだね。」
みんながおかみさんから離れようとしたその時、先程までの音がピタリと止まる。
「…………カシコマリマシタ、ショウショウオマチクダサイ。」
そう言っておかみさんは動き始めた。
「…………あれ? 成功したのかな?」
「うおー! 成功だ!」
どうやらおかみさんは銀行へ向かって言ったようだ。
「ふっふー、やっぱり私の作戦は成功したね、計画どーりだよ!」
ルカは先程までの自信を取り戻し、明るい声音に戻った。
その後、僕達はゆっくりと歩くおかみさんの後ろを少し距離をとって着いて行った。
おかみさんはその間一言も喋らずにただ黙々と道を進んでいった。
しばらくして歩く時の音が少し変わった。
どうやら街に到着したらしい。
僕はさっきまで結構周りを見ていたのでこれ以上はルカに使っちゃダメと言われてしまったから今どうなっているのか見ることは出来ない。
だから、みんなの実況を聞きながら状況を把握している。
街に入ってやや経ち、ようやくおかみさんは銀行の近くまで来たようだ。
「えっと、そこの中にお金がいっぱいあるから、あるだけ持ってって貰えるかな? お釣りは要らないからさ。」
「…………カシコマリマシタ。」
ルカはおかみさんにそう指示を出し、銀行の中へ向かわせた。
おかみさんは先程のようにはならずにスムーズに銀行の中へ向かっていった。
「やったー! これで温泉に入れるね!」
ルカは大喜びで小躍りした。
みんなも嬉しそうに歓声をあげた。
しかし、そんな喜びもつかの間、おかみさんが銀行に入って数分経った頃、銀行の中からヂリリリリリというなんとも不快な音が鳴り始めた。
「わっ、何この音!?」
目の代わりに耳を尖らせて周りの状況を把握している僕からするとその音はかなりきついものだった。
僕は両手で耳を塞いでその音をかき消そうとするが、それでもなおその音は聞こえ続ける。
「うーん、不味いねー。」
「だ、大丈夫、とりあえず隠れておけば大丈夫だから!」
僕は何が起こっているのか分からず、ルカにぎゅっと抱きついた。
その不快な音はその時もなり続け、さらに遠くからまた別の不快な音が鳴り響き近づいてくる。
「うー、
「えっ、それって不味いんじゃ…………。」
「……大丈夫だよー、メグは耳塞いでてねー。」
「う、うん。」
サナの指示に従って耳をしっかりと塞ぐが、それでもやはり音は消えない。
後に聞こえた音が最初に聞こえた音と同じぐらいの大きさになった時、耳が取れてしまうのでは無いかと思う程の大きな音が鳴り響いた。
「うわぁっ、な、何!?」
「メグ、静かに。」
「むぐっ!?」
僕が驚いて声を上げると、ルカが僕の口を抑えた。
僕がもごもご言っていると、いきなりサイレンの音が聞こえなくなり、当たりが不気味なまでにシーンとした。
それでも引き続きルカは僕の口を抑えて息を潜めていた。
暫く経ってルカが僕の口から手を離してくれると、みんな緊張の糸が切れたかのようにため息をついた。
「ね、ねぇ、今何が起きてたの?」
唯一何が起こっていたのかわかっていなかった僕はわけも分からずみんなに質問した。
「今のはおまわりさんだよ、銀行の中に無許可で誰かが入ると来るんだよね、大丈夫だと思ったんだけどなー。」
「うぇっ!? それってやばいじゃん…………あれ、じゃあなんで僕たちは全然大丈夫だったの?」
「私達は銀行に入っていた訳じゃないからね…………。って、そんな事よりも今のうちにお金取っちゃお!」
そう言って僕達は銀行の近くまで走っていった。
「うん、やっぱり…………おまわりさんも壊れてるみたいだね、お金をばらまいたまま帰って行ってるし……。」
「まー、僕達にとっては好都合だよねー。」
僕はルカにはバレないようにこっそりと周りを見た。
周りには何がよく分からない破片の様なものとペラペラの紙が大量に落ちていた。
みんなはこれを拾い始めたので、多分これがお札というとのなのだろう。
それから僕達はそこら中にばらまかれているというお金を拾いまくった。
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