第5話 天使とは入浴できません

 天使とプールに行った翌日


「今日は一緒に、お風呂に入りましょう!」


はだかはダメ、ですよね? わかっています。セイナは天使なので気にしませんが、あなたは気にするのですよね? わかっています」


「なので水着を着ました。これならいいですよね? 裸体らたいではありません。せっかくあなたが選んでくれた水着ですから、もっと着たいのです」


「あなたの好きなピンク色。お胸と腰のヒラヒラがかわいいです」


 正面に近づく天使。見上げるようにして


「お風呂、入りますよ?」


「ダメ!? なんでですか! 背中を洗ってあげましょう。人類のオスはかわいいメスに背中を洗ってもらうのをこのみます。大人のお風呂屋さん、でしたっけ? 女の子が体を洗ってくれるお風呂屋さんに高いお金を払うのですよね。しってます、ネットで勉強しました」


 どんな勉強をしているんだ

 あなたはネットの恐怖を感じる


「ですがどうでしょう! セイナならタダなのです。背中どころか体中洗ってもらっても、タダなのです。とってもお得です。大セールです」


 この天使は、「お得」や「セール」に弱い


「セイナは人類からは、とってもかわいいメスに見えているはずです。カナコも、セイナちゃんめっちゃえ♡ めっさ天使マジ天使♡ と賛美さんびしています。スマホでパシャパシャですよ」


「……ダメ、ですか?」


「セイナ、あなたのお役にたちたいです。あなたの願いを叶えるためにここに来たのに、セイナはなにもできていません。毎日まいにち、シュークリームとご飯を食べているだけです」


「そんなことない、ですか? セイナがいてくれて楽しい……ですか? 家族ができたみたいって」


「そ、そうですね。あなたには家族がいませんものね! いいですよ、セイナを家族だと思ってください」


「……いもうと? さすがにそれはあれじゃないですか!? つま伴侶はんりょいかでしょ!」


「うぅ~、確かにセイナは人類から見れば子どもですけど、それは見た目だけです。セイナは天使ですから、人類とは違うのです。これでも人類でいえば大人なのです。これ以上、成長しないのです」


「その気持ちだけでいい……ですか? それに、お金を払えば女の人が洗ってくれるお風呂屋さんにはいかない? はぁ、まぁ……高価こうかなのでしょう? ネットにもそう書いてありました。ピンキリだと!」


「セイナが本当に僕のお嫁さんだったら、一緒にお風呂に入るけど、ですか……」


「じゃ、じゃあ! そう願ってください。セイナをお嫁さんに望んでください、本気でそう望んでもらえれば、セイナはあなたの願いを叶えることができます!」


「……はっ! い、いえ、今のは忘れてください。やっぱりお風呂は、おひとりでどうぞ」


「な、なにもないですよ!? セイナをお嫁さんにするとあなたにデメリットなんか、ぜ~んぜんっ! まったくありません。ゼロですよ、ゼロっ。ですがセイナにも、天使のほこりがありますのでー……ね? 理解してください!」


 背中を向け、距離をとる天使

 立ち止まって振り返り


「あの……水着、ありがとう。あなたに選んでもらえて、似合うって、かわいいって言ってもらえて、うれしかった。本当に、うれしかったよ♡」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る