第3話 天使にはピンクが似合う

「おかえりなさい。セイナは今日もすることがないので、テレビとネットで人界のお勉強をしていました」


「願いは……まだですね、わかりました。セイナがあなたの部屋に引きこもり始めて、もう2週間です。なので、あなたの心がわかるようになりました。みなまで言うなさっしてやろう、なのですよ」


「ですがあなたの願いを叶えないと、セイナは天界に帰れません。このままニート生活を続けるしかないのです」


「それは、天使としてどうなのでしょう? これはこれでよい生活にも思えますが、精神的にくるものもあるのです。このままでは、ダメになるのではないか? ダメ天使になっちゃうのではないか! ですよ」


「あっ、はいはい。夕ご飯に食べたいもの、ですか? シュークリーム以外でですか? うーん、なんでしょう……ブタの生姜焼き? テレビで見たのです。しっていますか? おいしいらしいですよ」


「お買い物、一緒に行きますか? じゃあ、着替えます」


 天使は、肌も身体のラインも透けて見えるような、薄い生地のワンピース姿。天界での制服であるこれが一番楽らしく、家の中ではだいたいこの服装

 下着はつけてもらえるよう説得して買い与えたはずだが、どう見てもワンピースの下は裸だ

 

「あっ、いちいち、トイレにこもらなくていいです。あなたは照れ屋さんですね。セイナは人類に裸体を見られても、なにも感じません。見たいのなら、隅々まで見せてあげましょう」


 天使と暮らす許可は大家さんにもらったが、あなたのアパートはワンルーム。お風呂や着替えなど、天使とはいえ女の子と暮らすのは気を使うことが多い


「はぁ、そうですか。女の子なんだから、そんなこと言わない……ですか。いいですけど、セイナは天使ですよ? それは、忘れないでください」


 あなたはトイレにこもり、天使の着替えを待つ


 カソゴソ(着替える音)


「…………もういいですよー。着替えました」


 トイレから出る

 天使はあなたが買ってあげた、少女らしい服に着替えている


「どうですか? かわいいですか! セイナはこのハイソックスがかわいくていいと思います」


「ふむふむ、そうですか。セイナにはピンクが似合いますか。なんでしょう、人類の衣服は色鮮やかで楽しいです。ですが、衣服もタダではないでしょう? これほどセイナに買いあたえて、大丈夫なのですか? 生活できるのですか?」


「なっ! お金のことばっかりですって!? まるでセイナが守銭奴しゅせんどのようないい方です!」


「セイナは心配しているのです! お金は大切です、お金がないとシュークリームを買ってもらえなくなります、セイナが好きなプレミアムシューがスーパーで1個138円(税別)なのはしっています! ですがシュークリームは、できれば1日2個買ってほしいのです。昼のぶんと、夜のぶんです」


「バイトすればいい? もっとたくさん食べられるよ、ですか。それはわかるのですが、セイナもスーパーでレジ打ちをしてお金を得ようとお店の人にお願いしましたが、いくら天使さまでもねー、きみどう見ても中学生でしょ? こんな小さな子を働かせてたらお客さんに怒られるよー、ダメダメ……と断られました」


「だからです! セイナが人界でお金を稼ぐのはむずかしいです。くちしいですが、生活はあなたに頼るしかないのです。あなたはごく一般的なサラリーマンです。アパートの大家さんが親族で家賃がタダとはいえ、セイナをやしなうのは簡単ではないでしょう」


「セイナもですね、人界を学びました。インフレですよ! インフレーション社会です。どうですか! 株価がどうとか、円安がどうとかです!」


「……あー! ごめんなさい、生姜焼き食べたいです。じゃあお肉は高いからやめようなんて、どうしてそんなひどいことが言えるんですか! 悪魔にそそのかされたのですか!?」


「ほら、お買い物にいきますよ! スーパーではセイナがカートを押してあげましょう、いい天使ですね。なのでチョコ入りマシュマロを買って……ください。1個32円(税別)なので、3個いいですか?」


 あなたが頷くと、天使がぶつかるように抱きついてくる


「はい、はい! 約束ですよー♡ あなたは優しい人類ですね。人類は基本的に無知で無理解で自分以外の存在の痛みに鈍感だと聞いていたのですが、あなたはそうではない人類のようです」


「セイナ、人界はこわいところだと思っていました。でも違いました」


 天使があなたの手を取り、引っ張る


「……ん? そうなのですか? 人類はいろいろですか。なるほど、人界には〈界式かいしきシステム〉がありませんから、しかたないのでしょうか……」


「そんなことより、今はスーパーです。今日は木曜特売の日ですから、お肉が安いかもしれませんよ!」

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