第2話 空腹天使に贅沢は敵

「……ふぅ。あまりの甘さに、われを忘れてしまいました。天界では天使が甘味かんみを与えられることは、ほとんどないのです。それに天使に与えられる食事は、あまり味がしません。薄味なのです」


「一般天使からはもちろん大不評ですが、文句をいうと大天使さまのお説教が始まるので、みんなあきらめています」


「いえ、確かに人界の食事は多種多様だと聞いていましたが、これほどとは……なんと贅沢ぜいたくな!」


「なにを笑っているのですか……それだけじゃ少ない? 確かに大変美味でしたが、量は少ないですね。もう少し食べたいですが、これほどのお菓子です、さぞ高価こうかなことでしょう。あなたはセレブではないのでしょう? 大丈夫です、セイナはできる天使です。がまんができる天使です」


 ぐうぅ~っ!(お腹がなる音)


「が、がまんできます! できてますっ」


「は? お買い物に行く? それがあなたの願いですか?」


「……セイナのご飯を買いに行く、ですか? セイナは人界のお金をもっていません。お金がないとなにも買えないのは、天界も人界も同じはずです」


「そうですよ! 天界も資本主義社会なのです。お金お金お金、です! セレブとそれ以外です。もちろんセイナはセレブではありません。セレブは人界になんか来ません!」


「ん? お腹がすいてるからイライラする? そ、そうですね。セイナは基本、おしとやかな天使なのですよ?」


 ぐぎゅぐるるるうぅ~っ!(激しくお腹がなる音)


「はぁ……本当に、食べ物を買ってくれるのですか?」


「あ、ありがとう……です」


 安心したような、子どもっぽい笑顔をみせる天使


「あなたは、いい人類です。天界に提出するレポートには、そう書いてあげます」


「セイナは、ここで待っていればいいのですか? 服がスケスケだから外はダメ? なにいってるかわかりません、これは一般天使女性型の制服なのです」


「はぁ、人界はスケスケの服で出歩いちゃダメなのですか? ポリスが凶悪犯罪と判断することもある!?」


「わ、わかりました。では、待っています。いい天使で、待っています!」


「なので、できればシュ、シュークリームを……いいえ! 贅沢です! わかりますか? 贅沢は敵です。よい思いをすると、あとが辛いのです。過去をなつかかしみ泣くことになります」


「あっ、行くのですか? どれくらい時間がかかりますか? できれば急いで欲しいのですが」


 ぐぎゅぐるるるうぅ~っ!(激しくお腹がなる音)


「今のはおならです。お腹の音じゃありません」


 あなたの迷惑そうな顔に、天使は訂正する


「……ごめんなさい、ウソつきました。お腹の音です」


 あなたは急ぎ、コンビニに向かう

 バタバタ、バタン(急いで買い物に出る音)


 アパートを出る瞬間


「…………おなか、すいた……な」


 天使の、小さくて情けない声が届いた

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