第18話 鉄仮面02
「レインさま、ようこそおいでくださいました。貴賓室で我が
レインが城館へ入ると
「この先はリリー殿下の寝所となりますので、
「わかりました」
レインが
「それでは、ご案内いたします」
クロエは先導して歩き始め、貴賓室がある5階までくると両開きの扉をノックする。
「クロエ・ベアトリクスです。レイン・ウォルフ・キースリングさまをお連れいたしました」
「……入りなさい」
「失礼いたします」
貴賓室からリリーの声が聞こえるとクロエは扉を開けて入ってゆく。扉のそばに直立し、レインにも入るように
「レイン、来てくれたのですね。嬉しいです」
リリーは嬉しそうに微笑んだ。白いワンピースドレスがとてもよく似合っている。
「こんな夜更けにお呼びして申し訳ありません」
「とんでもないことです」
「戦死者の追悼式に参加していたのですよね。素晴らしい心がけです。帝国のために戦う兵士はみな英雄です。呼んでくださればわたしも参りましたのに……」
リリーは悲しげに眉をよせる。レインは言葉が出てこなかった。帝都では
──リリーは自分のことよりもウルドのことを気にかけてくれている。
レインは嬉しく思いながら頭を下げた。
「今のお言葉だけで十分です」
レインの重かった心もだいぶ軽くなる。頭を上げると用向きを尋ねた。
「それで、このたびは何かございましたでしょうか? 何か不自由があればすぐに対応させます」
レインが尋ねるとリリーは少し目を伏せる。やがて、意を決したようにレインを見つめた。
「あの、レインの素顔を見せていただけませんか?」
「!?」
レインは驚いて声が出てこない。鉄仮面の奥で目を大きく見開いた。戸惑っているとリリーは恐る恐る言葉を紡ぐ。
「レインの素顔を知らないまま婚礼を挙げるなんて嫌です」
「……」
「わたしたちはいずれ素顔だけでなく、裸も知ることになるのですよ」
「そ、それはそうかもしれませんが……」
「わたしは我がままを言っているのでしょうか?」
リリーは青い瞳で切なげにレインを見つめる。視線は鉄仮面すらもすり抜けてレインの心を覗き見るようだった。リリーを見ているとレインは胸と頭の奥が熱くなった。
「我がままとは思わない。でも、リリー……君が怖がるといけないから」
「怖がる? わたしはあなたの妻となるのですよ。何を恐れると言うの?」
「だから、僕の素顔だよ!! 僕の顔や身体は赤く腫れあがり、爛れ、膿んでいる。醜いんだ……」
レインは当初、会話もぎこちなかった。しかし、今は動揺して気が回らないせいか、リリーと自然に会話している。語気を強めたかと思えば、今度は肩を落として両手を強く握りこむ。
「リリー、君に嫌われるのが怖い……」
「え……」
「あ、今のは……」
レインは自分でも知らないうちに本音を語っていた。『素顔を見せろ』だなんてジョシュたちにも言われたことがない。彼らは『レインの好きにすればいい』と静かに見守ってくれている。『素顔を見せて』と迫るのはリリーが初めてだった。
──何を言ってるんだ僕は……まるで子供じゃないか。なんて醜態だ……。
レインが恥じ入るように顔を伏せるとリリーは薄い唇の端を上げて静かに微笑んだ。
「レインは本当に正直ですね。少し羨ましいくらいです」
リリーはレインへ歩みよって鉄仮面に手をのばした。
「わたしは傲慢な『
リリーの手は鉄仮面の
──リリーがここまで望むのなら、もう仕方がない……。
レインは恥じ入る心を押し殺し、包帯の巻かれた手でリリーの手を握った。
「自分で外すから大丈夫……」
レインは後頭部にある留め具を外し、鉄仮面と兜を大理石でできた長机の上に置いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます