第4章 鉄仮面の狼
第18話 鉄仮面01
レインはウルディード城へと帰還した。両親と別れ、ジョシュたちと一緒に自身が住む西の城塞へ向かう。城塞の門前では衛兵たちが集まっており、レインの姿を見るなり駆けよってきた。守備隊の隊長が馬上のレインへ報告する。
「レインさま、先ほどリリー殿下からの急使がございました。至急、東の城塞にある貴賓室まで来て欲しいそうです」
「リリー殿下がこんな時間に僕を?」
「はい。お一人でいらして欲しいとのことでした」
「一人で……」
結婚前、しかも深夜に皇女の寝所へ行く……それは、あまり聞こえのよいことではなかった。戸惑っているとダンテが馬をよせてくる。
「レイン、呼ばれたなら行くべきでしょう。あなたは婚約者なのですから」
「ダンテの言う通りだよ。断ったらリリー殿下の機嫌が悪くなるかもしれないよ」
ベルも同調するがジョシュは違った。
「『一人で』ってのが気に入らねぇな。ここはウルディードでレインは次期藩王なんだぞ。護衛や側近を連れているのが当たり前だ。皇女殿下がどれだけ偉いか知らねぇが、レインと結婚するまではよそ者。好き勝手に命令できるわけがねぇ。そうだろ? ベル?」
「それは、そうかもしれないけど……」
「別に、部屋まで一緒に行くとは言わねぇよ。でも、東の城塞まではレインの供をするぜ。それが俺たちの務めだろ?」
「「「……」」」
ジョシュには副官としての
「じゃあみんな、東の城塞まで一緒に来てくれ」
「畏まりました。ジョシュ、問題を起こさないでくださいよ」
「んなこと、わかってるよ」
「本当かなぁ……」
「おいおい、ベル。お前こそ問題を起こすなよ」
「僕は大丈夫だよ」
レインたちは談笑しながら
× × ×
白い
城門では黒い甲冑をまとう皇女親衛隊が警備にあたっていた。兜や胸当ての中心には『
「この先は
「わたしはレイン・ウォルフ・キースリング。リリー殿下に呼ばれて参上しました」
「……」
部隊長はレインをジロジロと見つめる。他の親衛隊員が集まってくるとニヤニヤと笑った。
「本当にレイン・ウォルフ・キースリング殿か? 鉄仮面の下の素顔を確認させていただきたい。レイン殿の偽者かもしれないからな。本人かどうか確認しなければならん」
「な、なんだと!?」
思わずジョシュが進み出る。レインはリリーと謁見するときですら鉄仮面をつけていた。部隊長がレインの素顔を知るはずがない。レインを侮辱しているのがありありとわかった。
「てめぇ、からかってんのか!?」
「ジョシュ、やめろ」
レインはジョシュの肩をつかんで引き下がらせる。
「確認したいと言うのなら見せましょう……」
「レインさま、お待ちください」
レインが左手を鉄仮面にそえるとダンテの止める声がした。ダンテはレインの隣までくると部隊長へ語りかける。静かな口調だが凛とした響きを持っていた。
「本当にいいのですか? レインさまをお呼びしたのはリリー殿下。それを無用の詮索で
「……」
ダンテの言うことはもっともであり、リリーの名前まで出されると黙るしかない。部隊長は舌打ちをしながらダンテを睨んだ。
「口の立つヤツだな。まあ、いいだろう。俺もバケモノの顔なんて見たくないからな。レイン殿だけは通してやる」
部隊長はどこまでも傲慢だった。『リリーの婚約者』に対する態度とはとても思えない。
──きっと、帝都ではこれが普通なんだ。動じるな……。
レインは自分に言い聞かせながら城館へと向かって歩いた。
× × ×
レインが城館へ入ると部隊長はジョシュたちに解散を命じた。
「おい、お前ら。さっさと消えろ」
「「……」」
部隊長の態度は気に入らないが、問題ごとを起こすわけにはいかない。ジョシュとダンテはおとなしく
「おい、聞こえなかったのか? すぐにここを……」
「ねえねえ」
ベルは部隊長の言葉をさえぎり、不思議そうに首を傾げた。
「さっき、レインのことをバケモノって言ったよね?」
ベルの口元には不気味な笑みが浮かんでいた。
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