第17話 火柱01
日が落ちるとウルド砂漠の空に星が輝き始める。白い巨石が転がる岩場では兵士たちが巨木を天高く組み上げていた。木組みが終わるとロイドは手に持った
ここはウルディードの西にある岩場で『ジグドの丘』と呼ばれている。半壊した
「誇り高き砂漠の狼たちよ……」
巨大な火柱が立つとロイドは黒い革袋を大事そうに取り出した。革袋には外征で戦死した兵士たちの遺灰が入っている。ロイドは革袋を燃え立つ炎のなかへ投げ入れた。
「
そう言うとロイドは腰の前で手を組み、目を瞑って黙祷をささげた。ロイドの後ろにはサリーシャや外征に参加していた将軍たちもいる。そして、最後列ではレインもジョシュ、ダンテ、ベルとともに黙祷をささげていた。黙祷が終わるとロイドは振り返って帯剣を抜く。ゲルン
「今、
「「「ウルド国万歳!!
兵士たちはロイドに続いて
──僕は初陣すらしていない。僕に見送られても彼らは喜ばないだろう。
レインはやはり自分の身体を呪った。自分だけが安寧を
──僕だって包帯を巻き、鉄仮面をつければ戦える。それなのに出征は許されない。父上と母上は僕に期待していない。
レインは両手を強く握った。すると、ロイドが声をかけてくる。ロイドはジョシュや衛兵たちを下がらせてレインと二人きりになった。
「レインよ、炎と語らっているのだな……」
「はい。彼らに謝っておりました」
「謝る? 何を謝るというのだ?」
ロイドが尋ねるとレインは視線をロイドへ向けた。
「僕は戦場を知りません。彼らも呆れているでしょう。だから、謝ったのです」
「お前は戦死した兵士たちが咎めると思うのか?」
「はい。戦わないことは罪です」
レインははっきりと言いきった。鉄仮面の奥の瞳は罰を欲しているようにさえ見える。ロイドはレインの肩へ手を置いた。
「お前は自分の身体と戦っているじゃないか」
「父上、これは戦いなんかじゃありません。呪いです」
レインは鉄仮面の下で奥歯を噛んだ。
「僕はウルドの風も、雨も、陽射しですら感じることができません。でも、ウルドのために戦いたいのです。みんなのように血を流し、祖国のために戦いたい」
レインは鉄仮面をロイドへ近づけて切実に訴える。だが、ウルド国への強すぎる愛情はロイドを不安にさせた。
「お前はなぜ、そんなにも戦いを望むのだ?」
「ウルドに栄光をもたらすためです」
「では誰と戦う? アルメリア共和国か? フェルヘイム帝国か? それともイル・ハン君主連合か? 言ってみろ」
「そ、それは……」
ロイドは神聖グランヒルド帝国と隣接する列強の名前を上げた。レインが答えに困って俯くと諭すように続ける。静かな口調はレインへの愛情に満ちていた。
「お前は自分の身体に引け目を感じ、
「……」
レインが黙りこむとロイドはふと視線を移す。離れたところでは騎乗したサリーシャがこちらを心配そうに見守っていた。
──サリーシャ、やはりお前と一緒に話した方がよかった。父親の声より、母親の声の方が息子へ響く。
ロイドは『二人で話してきて』と背中を押したサリーシャを思い出して苦笑する。あらためてレインを見つめると、黒く輝く二つの瞳がサリーシャとそっくりだった。
──レイン、お前は生まれながらにして『
突然、ロイドは眼光を鋭くして全身にただならぬ気迫を漲らせた。黒い瞳に燃え上がる火柱を映しながら続ける。
「いいか、レイン。俺とサリーシャがお前の出征を許可しないのは、お前が『戦いを望む人間』だからだ」
「……」
「いらぬ
「……」
「狼たちの王は常に群れのことを考えて行動するものだ。わかったな」
「は、はい父上。わかりました」
レインは初めて両親の本音を知った。両親はレインを過保護にしているのではなく、
──僕は間違っていたのか……。
レインの葛藤は強くなる一方だった。火柱から噴き出る炎は不気味な陰影をつくりだし、レインとロイドを照らし出す。レインにはロイドが
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