第39話 投擲練習(2)

 歩きながらストレージを確認してみる。第一階層でこれをやるのはマナー違反なんだけど。

 昨日もらった鉄つぶてが目に留まる。そうだ、これの使い方を練習しないと。

 投擲ということで、ひとまずダーツ同好会に顔を出す。今日もいつもの三人が手持ち無沙汰でたむろしていた。

「お客さん、来ないんですね」

「これでも一学期まではそれなりに繁盛していたんですよ。ですが悪い噂が立ってからというもの、すっかり閑古鳥が鳴くような状態になってしまいました」

「悪い噂って、薬物使用の件ですか?」

 思い切って聞いてみた。

「ああ。こっちは怪しい店っていうコンセプトでやってるだけで、本当に怪しいことなんかしちゃいないんだ。それなのにどこかから噂が立ってしまってな」

「ったく、生徒会のやつらのせいっすよ。あいつらが頻繁に立ち入り検査とかなんとかって難癖付けてくるからそんな噂が立っちまうんだ」

「とはいえ、こちらも隠したい物がある身ですからあまり強硬な抗議はできません。かといって全面協力というわけにも行きませんし、生徒会から見たら限りなく黒に近いグレーに見えたのでしょう。案外そういうところを事件の真犯人につけ込まれて、目眩ましに使われたのかも知れませんね」

 なるほどね。黒幕の人は相当頭が切れるみたいだ。

「ところでなんですけど、先輩方は鉄つぶての扱いってわかりますか?」

 手のひらに三個の鉄つぶてを具現化させる。

「玉か。刺さらない得物には興味ないね」

 一応、手にとって転がしたり握ったりはしてくれたけれど、ヒョロ先輩はとくに魅力を感じなかったみたいで返されてしまう。

「ちょっと小さいが握れないほどでもないし、野球のボールみたいに普通に投げればいいんじゃないのか?」

 ソフトマッチョ先輩もおざなりな回答である。

 言われるままにボクは鉄つぶてを手の中でコンパクトに握り、まっすぐオーバースローで的に向かって投げた。

 ゴツン、パキャ。

「わわわ、ごめんなさい、的が割れちゃった」

 三メートルのほどの距離だったので的のど真ん中に命中、的は鈍い音を立てて真っ二つに割れてしまった。

「ああ、気にすんな。さんざん手斧をぶっ刺したからもろくなってたんだ」

「意外とというか、当然というか、けっこう破壊力があるな」

 ヒョロ先輩が的を確認しつつ鉄つぶてを拾ってくれる。

「ほい。魔物相手の武器としちゃあ、かなり有効なんじゃないか。だが優雅さがない。的に刺さらない武器は俺たちダーツ同好会の守備範囲外だな、やっぱ」

「ですよね。スリングもあるんだけど、どこで練習しようかな」

 思ったより危険な武器だとわかったので、部室の中ではあまり思い切って鉄つぶてを投げられない。スリングを振り回すとなったらやっぱり闘技場かな。

「スリングっておまえ、サイクロプスを一撃で倒したっていう伝説のアレか」

「いや、いろいろ混じってるし。伝説ってのは身の丈二メートル以上ある巨漢の兵士を羊飼いの少年が倒したっていう話だろう。まあ、だいたい合っているっちゃ合っているけどな。その意味じゃ、上背のないコウタには向いた武器だが。そうだな、形状的にはハンマー投げに似ているか。闘技場にいる陸上部の連中に聞いてみるといい」

「ありがとうございます。行ってみます」

 やっぱり先輩方は頼りになるね。さっそく闘技場に行ってみよう。

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