第36話 幕間

「アリバス商会による抗議は生徒会に却下されました」

「まあ、当然だろうね。彼もつまらないことをしたものだ。彼は商会のCOOトップにはふさわしくないのではないかな」

「では、すげ替えますか」

「いやいや、魔工技術協同機構アカデミーは互助組織だよ。代表とはいえ、私にそのような権限はないさ」

 長テーブルの奥、薄暗がりに座る男子生徒が答える。

 両肘をついて組んだ指が口元を隠していて、彼の表情は読み取れない。男子生徒は、中性的で整った容貌と首もとで切りそろえられた艶やかなストレートヘアが相まって、年齢不詳の外見をしている。だが、醸し出される空気には上に立つものの圧力があった。

「承知いたしました」

 部屋の入り口付近に座る生徒が手元のバインダーに何かを書き付け、紙をめくる。

「最近、冶金鍛造研究部の活動が活発になっています。売り上げに大きな変化は見られませんが、支出が増加しており生産活動の活性化が見られます。それに伴って特定の生徒の出入りが増えている様子です」

「工房の活性化は長年の課題だから良い兆候だね。何かきっかけがあったのかな。その特定の生徒というのは?」

「魔工部からの出戻りですね。もともと冶金鍛造研究部に所属していて魔工部に異動していたメンバーが、工房に戻ってガラスの生産を行っているようです」

「ガラス、ね。わざわざ工房に戻って活動しているということは、原材料から生産しているのかな。誰かが砂を入手したということか……」

「他にも二名、最近顕著に姿が見られるようになった者がおります。所属は魔法道具同好会」

「あそこは部員一人じゃなかったっけ?」

「最近入部申請がありました。名前は姫野荒太」

「……なるほどね。その子が砂を調達したというところかな。姫野荒太に監視をつけて行動を報告するように」

「すぐに手配いたします」

 報告を行っていた生徒が退出する。

「さて、姫野荒太君。君は盤面を作るポーンかな?それとも縦横無尽に掻き回すビショップかな?」

 独りになっても男子生徒はそのままの姿勢で座っている。誰かを待っているのだろうか。

 ほどなくして部屋の奥の暗闇が揺らぐ。いつの間にか男子生徒の足下にひざまづくようにわだかまる影があった。

「報告を」

「生徒会は捜索を継続する模様です。治験薬の供給はご指示通り停止しております」

「生徒会も粘るね。愚直に勝る捜査なしといったところかな。ふむ。先手を打ってすべて処分しよう。すでに製造済みのものと製法書を除き、材料や資料は焼却。製造設備も解体して廃棄するように」

「御意」

 影の気配が消える。

「私としたことが、少々急ぎすぎたかな。治験サンプルの最初に特殊事例に当たるとは運が無かったというべきか。後始末に少し動く必要があるかもしれないね」

 つぶやく男子生徒の表情はどこか楽しげであった。

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