第27話 鍛冶屋

 エスト確保の目途がついたので少しお金をかけてボクの装備を更新しようという話になった。ボクは自分のエストは魔法道具同好会の活動資金として提供するつもりで入部したわけだから、自分で稼いだおエストだとは言え使ってしまうのには抵抗がある。装備の更新に足りない分を部の蓄えから出すと言われたらなおのことだ。だけどひよりには、これから活躍してもらうための先行投資だよ、と押し切られてしまった。

 確かにダンジョンをより下層まで攻略するには先立つものがいる。装備を更新して火力アップを図ることは避けて通れない出費だった。

「でもなー、男のプライドってものがあるんだよ、ひよりぃ」

 一人でうじうじとつぶやきながら冶金やきん鍛造たんぞう研究部に向かう。

 生産系の部活で武器の製造や整備を極める活動を行っている、要するに鍛冶屋さんだ。高校生の部活動としては極めて珍しいけれど、外では危なくて使用を許可してもらえないような高炉も、銃刀法に引っかかるような刀剣も、ダンジョンの中では合法的に?扱える。できないことができるとなったら、やりたくなるのがオトコゴコロである。それに、ダンジョンという土地柄、武器の製造・整備は需要があるからね。

 場所はダーツ部の先輩に教えてもらった。

「こんにちはー」

 扉を開けると少し広い部屋にカウンターがあり、のれんの掛かったとば口が見える。奥は工房になっているようだけど活気というか熱気がない。炉に火が入っていないのだろうか。

 カウンターにはがっちりした体格の三年生らしき先輩が座っており、腕組みをした姿勢で目をつぶっている。居眠りしているのかな。

「あのー、こんにちはー」

 少し近づいてもう一度呼びかける。

「聞こえてるよ。何の用だ」

 不機嫌そうな声で左目だけを開けてこちらを睨みつける。

 うーん、鍛冶屋さんのロールプレイ……っていうわけじゃなさそうだね。これは本当に不機嫌なやーつ?

「あのー、武器の整備をお願いしようと思って……」

 恐る恐る大型ナイフをカウンターに置く。

 鍛冶屋の先輩は慣れた手つきでシースからナイフを取り出すと、刃先を人差し指の腹でなぞる。

「ふん、ダンジョン産の無加工品か。だが、ちゃんと実戦で使っているようだ。剣術部でもないのに珍しい」

 両目を開けてこちらの様子をじろじろと見る。ようやく興味を持ってもらうことができたようだ。

「魔法道具同好会です」

「聞かない名前だな」

「ダーツ同好会にも在籍しています」

「ああ、お手玉で遊んでる連中の仲間か。鍛冶屋としちゃあ、武器の扱いに不満があるが、ちゃんと使っているだけマシってもんか……」

 ずいぶんと世をはかなんでいらっしゃるご様子です。

ぎ師のタツに頼んでおいてやるよ。そうだな、四日ほどしたら取りに来な」

 けっこう時間がかかるんですね、とは言わずに飲み込む。

「あとですね、ショートソードの買取りもお願いできますか?」

「ドロップ品か?」

「はい。入手したけどボクは使わないし、購買に行っても二束三文みたいですから、こちらで材料として買い取ってもらえればと思って」

「ドロップ品とはいえ、出来上がった製品ものつぶすってのは性に合わないんだがな」

「ダメ……ですか」

「いや、うちもほかに材料があるわけじゃなし、てめえで購買から買ってきてつぶすよりはマシだ。砥ぎ代と相殺でいいか?」

「あ、はい」

 相場が分からないのだから答えようがなかった。でもまあ、ただの拾い物だし言い値で構わないだろう。

「それで、新しい武器とか作れるんですか?刀とか」

「ああ?」

 ひいっ。ヤバい、逆鱗に触れたかな。

「刀か。夢だな。この部活に入って、一度は打ってみたいと目標にしていたが……」

 睨みつける眼光がふっと緩み、遠くを見る瞳になる。

「鋳つぶした鉄ではどうにも純度が足りなくてな。俺みたいなシロウトじゃなく、本物の鍛冶師ならつぶした鉄の成分を調整して立派な鋼を精製できるのかもしれないが。ここには本当の経験者が居るわけじゃない。手に入る資料をもとに見よう見まねで打つしかないから、材料が違うと途端に歯が立たないのさ。情けない話だがな」

 そう吐き捨てるように言った。

 そういえばダンジョンで鉄鉱石が出なくなって久しいって誰かが言ってたっけ。昔は活発だった冶金鍛造研究部も、最近では見る影もないということなのだろう。

「大した武器は作れないが、そうだな、おまえさん、ダーツ同好会なんだろう?実践向きが好みなら棒手裏剣だったら少しは在庫があるぞ」

「それ、ください」

 新しい武器が手に入るなら大歓迎。うまく使いこなせるように努力するのはこっちの仕事だ。 大型ナイフが砥ぎから戻るまではダンジョンに潜れないから、その間の時間はひよりの手伝いとか棒手裏剣の練習に当てよう。

 ボクは当面の予定を頭の中で立てながら、鍛冶屋をあとにした。

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