第24話 お金がない!(2)
翌朝、ヒコとの朝練はない日で直接教室に向かう。結構早い時間だったのにヨギがすでに教室にいて、ほかのクラスメイトと雑談をしていた。あれ?そういえばヨギが後から登校してくるのを見たことがない。早起きなんだろうか。
「っはよー。ん?どした?」
挨拶もなしに顔を見つめていたボクにヨギが怪訝な表情をする。
「あ、いや、ヨギはいつも朝早いなーって」
「そうか?こんなもんだろう?」
「だって、ちゃらんぽらんなキャラに合わないじゃん」
「いや、オレのことなんだと思ってんの?こう見えて朝イチに登校して花壇に水やりとかしてるんだから」
「へー」
「いや、そこは突っ込むところでしょ。『んなわけあるかーい』とか『どこの花壇じゃい』とかさ」
突っ込みキャラって朝からカロリー消費高いよね。だから早起きなんだろうか?
「家が近いとか?」
「その逆。オレ、電車通学なんよ。通勤ラッシュ避けて早い時間に来てんの。朝だと電故も多いからさ。うちの親、欠席はいいんだけど遅刻には厳しくてね」
そっか、そうだよね。この近所だとボクと同じ中学校になるからヨギみたいなコミュニケーションお化けのことを見聞きしないはずがない。
「実際、家が近いヤツのほうが遅刻しがちなんだよね、ぎりぎりまで寝ていられるから。これ、家近いやつあるあるな。そういや、コウタは家近いのに早いな。今日は朝練ない日だろ?」
「まあね」
実のところ、中学校のときの同級生と顔を合わせたくないっていう事情もある。近所だと転校しただとかなんだとか、いろいろ噂が伝わっていて面倒くさい話になりかねない。だから朝練がない日でも割と早くに登校している。
「それにしてもコウタは結構熱心だよな、ダンジョン攻略。もう第四階層に到達したんだって?」
「ヒコにキャリーしてもらっただけだから攻略ってほどじゃないけどね。って、なんでもう知ってるの?」
前にも思ったけど、ヨギは帰宅部で放課後は学園にいないはずなのになんで部活のことを朝の時点で知っているんだろう。驚異の情報収集能力だ。
「昨日の夜、ヒコとトークしてて聞いた」
すごく簡単な理由だった。
「トークか、へー」
「コウタはヒコとトークしねーの?そういや、オレともトークしたことねーか……」
「……」
変な沈黙が流れる。
「……SNSとかしてなくても、オレたち、ズットモダヨ?」
「念押しすんなー」
死体蹴りされてボクのMPはゼロだよ。
「ヨーッス」
ぐだぐだしているうちにホームルームの時間が近づき、ヒコが教室に入ってきた。
「コウタの戦いっぷり、どうだった?」
「筋は悪くなかったぞ。素早い動きで被ダメージを少なく抑えられていたし。ただ、火力不足は否めないな」
「だよね。どこかでいい武器が手に入らないかな」
「ダンジョンでドロップを狙うのは厳しいんじゃないか。最近ではショートソードすら滅多に出ないっていうし」
「そうなの?昨日一本手に入ったから、マラソンすればどうにかならないかなって思ったんだけど」
「武器がドロップって相当レアじゃね?オレは一度も手に入れたことないよ」
「ひよりは『普通のショートソードだし使い道がないなら購買で引き取ってもらおう』って言ってたからレアドロップ品じゃないと思うけど」
「ショートソードがレアなんじゃなくて、ドロップすること自体がレアなんだよ」
「でも、昨日は木の盾もドロップしたし、そんなにレアって感じじゃなかったけど」
「げっ、一日に二個も?本当かヒコ?」
「ああ、確かに昨日は多かったな」
「そんなに珍しいことなの?」
「俺は戦闘目的でダンジョンに入ってるから、ドロップ品はどっちかっていうと邪魔になるんで気にしたことはなかったが」
「ビギナーズラックかねぇ。初週サービスでドロップ確率にブーストがかかってるんかな。いや、でもオレの時はそういうの無かったような……」
「単純にヨギの運が悪いだけじゃ?」
「それを言ってくれるなよ~」
何か心当たりがあるようで、ヨギががっくりとうなだれた。
自分が幸運なのかどうかはわからないけれど、レアドロップ品が古びたショートソードとおんぼろの木の盾では話にならない。
「ドロップ品が期待できないとなると、どこかで買うとか?」
「アリバス商会で売っているものもあるけど、レア武器なんて目ん玉飛び出るくらいのエストが必要だぞ」
「じゃあ、誰かに作ってもらうとか」
「それができればな。昔は鉄鉱石も採れたらしいんだが、鉱石系の素材は掘りつくされたみたいでそれこそスーパーレア品なんだ」
「んだねー、鉱石が手に入ればそれだけで大金持ちになれるぞ。ま、ダンジョン内でしか使えない金なんだけど」
「なるほどね。だったらショートソードは購買に売るより鍛冶屋に売れば高値が付くかも。その売ったお金で武器の製作を頼めば……。
そうだ、ヒコもニホントウがドロップしないならショートソードを集めてそれで刀を打ってもらえばいいんじゃない?」
「そうもいかないんだ。一度相談はしてみたんだが、出来合いの武器では鉄の質が違ってそのままでは上手くいかないらしい」
「それにボロいショートソードを売った金でより強い武器なんて買えるわけないじゃん。やっぱり先立つものがいるんだよなぁ」
「それなら当てがあるってひよりが言ってたよ」
「なになに、儲け話か?」
ヨギがもたれていたイスから身を起こして頭を寄せてくる。
「……姫野荒太、乙女座。今月の運勢は波乱含み。守護星が金星の位置に入るので幸運の補正がつく。本人を見舞う不運を周囲の友人が肩代わりすることも……」
「だから、山根さんやめてよ~。それだとオレが不運を被る流れじゃん」
「幸運も不運も運のうち。
止めることも、先を促すこともできずにヨギが引きつった表情で宣告を待つ。
ぱたん。
山根さんは何かを言いかけたが途中で止めた。スマホのカバーを閉じて急いでカバンに仕舞う。
すぐに先生の姿が教室の扉の向こうに現れた。
ヨギは声にならない非難の表情を山根さんに向けたまま慌てて自席に戻った。
とっくにチャイムは鳴っていたのだから仕方ないよね。
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