第23話 お金がない!(1)
「ただいまー」
「あ、コウくん。どうだった?」
魔法道具同好会の部室に戻るとひよりが書き物をしていた手を止めて振り向いた。
「ぜんぜん楽勝だったよ。弱い敵しか出なかったし、それもヒコがほとんど一人でやっつけたから。ボクは後ろからついていくだけでお散歩みたいなものだったよ」
「そう、怪我がなかったならよかったわ。でも、今回簡単だったからってダンジョンを舐めちゃダメだからね」
「そうだね。ボクだけだったらそんなに簡単ではなかったと思うよ」
そう、そこが問題なんだよね。今回は本当に様子見というか保護者同伴の観覧会みたいなものだった。コボルトもそんなに素早い敵ではなかったし、スピードでは負ける気がしない。だけど不意打ちならいざ知らず、ボクの攻撃では魔物にほとんどダメージを与えられない。タイマンなら長期戦覚悟で挑む戦法も採れるけれど、一対多数では通用しないだろう。
もっといい武器が要る。
装備の調達にはエストが必要だ。
でも、そもそもダンジョンに潜るのは部活動の資金稼ぎのためだったはず。 これでは本末転倒である。
強い人とパーティを組めばとも思ったけれど、今日のダンジョン探索ではほとんどヒコが敵を倒したのでボクがゲットしたエストの量は第二階層をソロで回るのと大差なかった。もう少し強くなって戦闘面での貢献度が上がれば取得できるエストの量も増えるのだろうけど。
結局のところ、
「あとは、そうだこれ、今日の戦利品」
ボクはショートソードと木の盾をストレージから出して机の上に並べる。改めて見ても貧相だ。
「どう?使える?」
「そうだね。木の盾は分解して木の板と金属の部品として使えそうね。とくに取っ手の部分は使えそう。ショートソードは要らないかな」
武器系は何かの材料にするには鋳つぶして鉄のインゴットに戻すくらしか使い道がないようだ。
「
「そんなに気にしなくていいよ。部活としての目標金額があるわけじゃないんだから。コウくんが必要なものに使っていいんだよ」
「でも、ひよりが作る魔法道具の材料調達に必要でしょ?」
「それはそうだけど、ダンジョンに潜るのだけがエストの稼ぎ方じゃないからね」
ひよりはそういうと、にぱっと笑って先ほどまで書き込んでいた模造紙半分くらいの大きな紙を広げる。
「じゃじゃーん」
「それは魔法陣?もしかして、空中浮遊の魔法陣かな?」
「せいかーい」
ピンポンピンポンという効果音を空耳してしまうくらいの満面の笑顔で大きく掲げる。
「これを売るのです」
「模造紙の魔法陣を売るの?」
「正確には、この魔法陣を浮かせたいものの底に刻むんだよ」
「なるほど。大きな家具とかの底に刻んでおけば、移動も簡単にできるってわけね」
「その通り!魔法陣として売るのではなく、魔法陣を設置するサービスを売るのです。これなら元手はかからないし、材料も減らないから儲けも出るでしょ?」
「でも、お客さん居るの?」
アイデアはいいと思うけど、部活の範囲ではそうそう引っ越しだとか大荷物を抱えているところなんてないんじゃないかな。
「ふっふっふー。一つ心当たりがあるのです。それも大口のお客様のあてが」
ひよりが精一杯悪徳商人の表情を真似ようとする。けど、もとが小動物なのでカワイイ変顔にしかならない。
「何ていう部活?」
「んっふー、企業秘密です」
うん、小動物のドヤ顔もカワイイね。
「今日はもう遅いから、明日一緒に行こう?」
「うん、わかった」
そういうことになった。
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