第20話 第三階層へ(2)

 ヒコの背後に回った敵は完全にボクの存在に気づいていない。すでにかなりの手傷を負っていて動作も鈍くなっている。

 ボクは背後からそっと近づき、脇腹の急所を一気に突き通した。

 コボルトの体が硬直してピンク色のダメージエフェクトに包まれ、弾けるように砕ける。即死判定だったようだ。バックスタブってやつ?

 きれいに決まってちょっと嬉しい。

 ヒコは残る二体をすぐに片づけて剣を鞘に納めた。

「助かった」

「ヒコなら何とかなったでしょ」

 グータッチをしながら讃えあうっていいね。

 それに立ち回りを見ていたらまだ余裕があったことくらいはわかる。それでもヒコがよこす感謝の表情は本物だった。

「リスポーンにはならなかったとしても、切られれば痛いからな」

「戦利品は……木の盾か」

 魔物の得物は本体と一緒に消えるけれど、そのうちの一部がドロップ品として残ることがある。今回はコボルトが持っていた壊れかけの盾が一枚、床に落ちていた。

「そんなもの、いるのか?」

 剣術部ではもっといい装備を潤沢に持っているそうで、このあたりのドロップ品は放置するのが基本だそうだ。

「ダンジョンでアイテムを集めるのがボクの仕事だからね。これが役に立つのかどうかはひよりに聞いてみないと分からないけど、一応持っていくよ」

「そっか、コウタは魔法道具同好会だったな」

「そ。気分的には戦士じゃなくてシーカーなんだ。ヒコはもろ戦士職だよね」

「そうだな。本当はサムライを目指してるんだけど、ニホントウはドロップしないみたいなんだよな、このダンジョン」

「だからヒコは盾は持たずに直剣の両手持ちなんだ」

「まあ、ここの敵程度なら防御に盾はいらないってのもあるけどな」

 そのあとも数回、魔物にエンカウントしつつ下層への階段を目指して進む。

 第三階層のスケルトンは第二階層と違って複数体で出現した。しかもコボルトと同じようなショートソードを携えており、ボク一人だと手こずっていたと思う。けれどリーチに勝るヒコは第二階層と同じように簡単に片づけてしまった。ちなみに第三階層のスケルトンからはそのショートソードがドロップした。見るからに汚れており刃こぼれもしていてボロい。購買で無償提供していたショートソードってこれかー。

 途中、長い直線が続く通路に出た。左手にはいくつか扉が並んでいるが、右手には扉も枝道もない。

「こんなところで前後から魔物に挟まれたらヤバいよね」

 通路の先で魔物の大群に遭遇して撤退している先にも別の魔物が現れた、なんてシチュエーションを思い浮かべてしまった。

「そうだな。まあ、第三階層とはいえそこまで魔物の出現率は高くないから、よほどの偶然でもないとそんなことにはならないと思うが」

「そういうときは横の小部屋に逃げ込むとか?」

「いや、ここは見通しがいい。どこに逃げ込んだかすぐにばれるからかえって袋のネズミになってしまう危険性が高い。もし挟み撃ちとなったら弱いほうに向かって強行突破を仕掛けるほうがましだな」

 結局、魔物の大群に挟み撃ちになるという想像は杞憂に終わった。

 ボクたちはほかには大した収穫もないまま、見慣れた構造の階段部屋にたどり着いた。

「ついたぞ」

「第四階層の入り口だね」

「降りてみるか?ポーションに余裕はあるからちょっと覗いてくるだけなら大丈夫だと思うが」

「そうだね。第四階層の地図も欲しいし、今日のうちに称号だけでも手に入れておきたいかな」

「決まりだ」

 そういうとヒコは剣を抜いて階段を降りていく。第三階層の階段と違ってずいぶん慎重な振る舞いだ。ボクも真似をして一応大型ナイフを逆手に構えて進んだ。

 ぐにゃり。

 いつもの転移酔いを感じつつ第四階層のフロアに到着する。

 ヒコは先に階段部屋の入り口を覗き込んで先を警戒しているようだ。

「どうしたの?」

「第四階層の階段部屋はセイフティーエリアになっていないんだ。いきなり魔物と遭遇することはたぶんないけど、警戒するのに越したことはない」

 確かにこの部屋には泉がない。薬草も生えていないからポーションの補給もできないってことだ。

「オレも第四階層にはあまり来たことがないんだ。ポーションの補給が難しいから連続戦闘になると厳しいし、帰りの行程の安全マージン確保も必要だしな」

「剣術部でパーティ組んでも難しいの?」

「この階層はゴブリンが出るから先輩たちはそれ目当てで訓練に来ているようだけど、準備とか往き帰りの手間を考えるとそこまでやるやつは少ないな」

 少し不満気なのはヒコとしては挑戦してみたい気持ちがあるということだろう。同学年でパーティを組んで第四階層にチャレンジする仲間がいなくてくすぶっているのかな。

「どうする?リスポーンのリスク込みでひと当てやってみるか?」

「ううん、今日は様子見だけのつもりだからここまでにするよ」

 第三階層のことも記憶が新しいうちに地図に整理しておきたいしね。

「わかった。戻ろうか」

 階段を上るときに最後にちらりと第四階層の通路に目を向ける。

 ほかの階層にはない、強い敵意が漂っている気がした。


 帰り道はほとんど魔物にエンカウントすることなく戻ってきた。

 第三階層の階段部屋でポーションを満タンにしていく。

 ヒコとは第二階層で別れた。下校時間まで闘技場で練習するらしい。

 貴重な部活の時間を割いてくれてありがとう、と伝えたら

「いや、オレも久しぶりの魔物との戦闘で刺激になったよ」

だって。イケメンである。

 そして今は第一階層の購買部にいる。

 魔法道具同好会の部室に戻る前に地図を入手しておこう。

「コウタくん、お帰り。第四階層到達、おめでとー」

 カウンターには美宮みるく先輩が陣取っていた。

 接客に勤しんでいるふうではなく、ただ暇つぶしに座っていたという感じ。購買部もお客がしょっちゅういるわけではないので基本は無人なんだけど、今日はどういう風の吹き回しなのかな?

「そんなに不思議そうな顔をすることはないじゃない。コウタくんが下の階層を目指すっていうからお祝いを言おうと思って帰りを待っていたんだよ」

「ありがとうございます」

 カウンターに第三階層の地図と第四階層の地図を並べてくれる。

「お目当てはこれでしょ?」

「はい。でもよくボクが第四階層まで行ったことわかりましたね」

「ムフフ~、コウタくんのことなら何でもお見通しだよー」

 何それ、コワい。ストーカー?

「種明かしをするとね。生徒会の管理者モードを使うと知りたい人の称号が確認できるんだよー」

 やっぱりストーカーだった。

 生徒会長、ストーカーに武器を与えないでください!


【本日の獲物】

・コボルト×八体

・スケルトン×十体


【入手アイテム】

・ショートソード×一本

・骨の欠片×三個

・犬歯×三個

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