第19話 第三階層へ(1)
放課後、購買部の前でヒコを待つ。
「はろー、コウタくん」
「こんにちは、
「誰かと待ち合わせ?隅に置けないねー」
「友達ですよ。いっしょにダンジョンに潜るんです」
「へー、コウタくん、ソロにこだわっているんだと思ってたんだけど、へー」
なんだか変な勘繰りをされているみたい。厄介な先輩だなー。
「今日、第三階層に行くんでそれで」
「ふーん、どんなやつ?お姉さんが見極めてあげよう」
「剣術部のクラスメイトです。もちろん、男ですよ?」
「大丈夫、お姉さんはコウタくんの相手がオトコでもいける口だから。むしろ好物だから」
どこまで本気なんだかわからないけど、やっぱり関わらないほうがいいよ、この人。
「悪い、遅れた。あ」
ようやくヒコ登場。まあ時間通りなんだけどね。生徒会の先輩にからまれているボクを見てちょっと引いている。
「キミがコウタくんのクラスメイトか」
「ちわッス。
「登場の台詞はありきたりだけど、まあ及第点かな。自分から名乗ったのはポイント高いわね。体付きも悪くない。身長差はピッタリね。顔はモブ顔だけど、まあ磨けば何とかなるかな。うん、合格!」
「いや、何のチェックですか。
「えー、これからコウタくんを預ける相手なんだから私のお眼鏡にかなうか審査は必須でしょう?」
「……」
ヒコが困惑して固まっている。
「はいはい、じゃあヒコ、行こうか。
「はいはーい、いってらっしゃーい」
ひらひらと手を振る
さて、気を取り直して第三階層入り口である。
途中、遭遇したスケルトンをヒコは両手持ちした直剣で袈裟懸けに仕留めた。斬撃というよりは打撃のような一撃だった。やっぱり重さがあると違うなあ。心強いけど、羨ましくもある。
壁に開いた下り階段は先が見通せない真っ暗闇へと続いている。第二階層への階段と同じだ。
途中まで降りるとぐらりと平衡感覚がおかしくなってすぐに目の前に第三階層の床が現れる。階下はセイフティーエリアになっていて、泉があるのも第二階層と同じ親切設計だ。
「とりあえず第四階層の階段を目指すぞ」
「オーケイ」
ヒコは戦闘重視のダンジョン攻略しかしていないそうだ。休憩ポイントになる小部屋以外は途中の扉には触れずに進む。
「ちょっと遠回りになるけど罠のないルートなんだ」
剣術部がダンジョン下層に降りるときの目的は魔物との遭遇戦だから、罠で不用意に怪我を負うよりも魔物の巡回に遭遇するほうを選ぶということらしい。
「モンスターハウスとかはないの?いつも魔物がいるのが確実なら戦闘訓練にはもってこいだと思うんだけど」
「聞いたことはないな。そういうのがあったら先輩が教えてくれると思うんだけど」
「ふーん、なんか寂れている感じだね」
ゲーム好きのボクからしたらこのダンジョンは
「昔はもっと強い魔物も湧いたって話だけどな」
「そうなの?」
「剣術部に伝わる剣を見せてもらったけど立派なもんだったよ。ここの魔物を倒すにはオーバーキルすぎる感じだったな。あれがドロップしたならそれに相応しい強さの魔物がいたっていう話もうなずけるよ」
しばらく行くとヒコが身振りで立ち止まるように指示してきた。
通路の向こうから魔物がくる気配がする。
「コボルトだな。三匹か」
いきなり複数体とのエンカウントだ。しかも数で負けている。
「あの数ならオレひとりでもいける。コウタは隙を突けそうならやってみてくれ。無理しなくていいぞ」
「了解」
もう少し引き付けて他に敵がいないことを確認する。
「いくぞ」
小声の合図でヒコが突入する。ボクは少し離れて援護というより観察する感じで接近。
ヒコの初撃が先頭の魔物にヒットし、派手なダメージエフェクトが噴き出す。
斃れた魔物は狼男というには小柄で貧相な体付きをしていて、手には粗末な木の盾と短めの剣を構えていた。盾持ちといっても有効に使えているふうではなくて、ただ構えているだけだ。あれならちょっと硬い装甲がある魔物というだけで、隙間を狙えばボクでも十分にダメージを入れられそうだ。ヒコの重い一撃は盾ごと弾き飛ばす勢いだからそんな小細工はいらない。まっすぐ踏み込んでズバッだ。
ヒコの立ち回りを観察していると、二体に向き合って器用に攻撃を捌きながら背後に回られないように気を付けているのが分かる。
そこに倒れていた一体がよろけながら立ち上がってきた。傷は浅くないけれど一撃で削り切るには足りなかったようだ。ヒコの反応が一瞬遅れた隙に、一体がヒコの横をすり抜けて背後に回りこむ。
ヒコが前面の二体を牽制しながらちらりと視線を送ってくる。
こっちは任せて!
アイコンタクトがヒコに伝わった様子で小さくうなずくのが見えた。
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