第17話 反転術式
「で、これはどうするの?このままじゃ靴としては使いものにならないんじゃ?」
「自分で押すのはどう?」
「ふむ、なるほど。自分でやれば力加減できるかな」
もう一度浮遊靴を使って浮いてみる。
自分で壁を押して、ついーっと進む。
「おお、面白い。でも止まるのが難しいね」
少し慣れるとバランスもとれるようになった。狭い部屋を行ったり来たりして空中スケートを楽しむ。ただ、本物のアイススケートのように床を蹴ることができないので、どちらかというとカーリングの
「クナイにロープをつけてどこかに括り付ければ使えるかもしれないね。といっても、あまり使いどころはなさそうだけど……あれ?」
靴底がはがれかけている。つま先のほうに少し隙間ができてパカパカしていた。
「ごめん、ダンジョン製の接着剤ってあんまり強力なのがないんだー」
試作品なので靴底は仮止めだったようだ。
「あ、そうだ。反転術式の魔法陣使ったらうまくいくかも」
「反転術式って?」
なにやら物騒な匂いのする魔法陣の名称がでてきたよ。
「いろんな魔法の作用を逆にできる魔法陣だよ。例えば、熱を出す魔法陣に反転術式の魔法陣を重ねると冷やす魔法陣になるの。わりとメジャーな魔法だよ」
魔法についてはまだ全然未習得なので詳しくはないけど、ここでは一つの魔法に反転術式を作用させて逆の効果を生む魔法を作るのは一般的な手法らしい。ダンジョン産の製品が持つ特殊能力も魔法によるものであれば反転術式を作用させることができるそうだ。ただし、マジックアイテムの場合は複数の魔法で構成されているので反転術式がどう作用するかは実際にやってみないとわからないらしい。
「弱い接着力が強くなるかも。まあ、接着力が魔法の効果じゃなくて物理的な効果だったときは効かないんだけどね」
ひよりはさっそく靴底を分解して靴本体の裏側に反転術式の魔法陣を描いていく。
「どうなるかは事前にわからないの?」
「だから今から試すんだよ?」
……つまりボクが実験体ってことだね。はいはい、知ってました。
どうやら最初に約束した部活のお手伝いに
「できた!」
「どれどれ」
なんだかんだ言ってもボクも実験は好きなほうなんだよね。いろいろ試してみるのとか面白いし。そんなところもひよりと馬が合う理由かも。
もういちど浮遊靴を装着して術式をオンにする。
「あれ、浮かなくなったよ。壊れちゃった?」
確認のために一歩足を出そうとして転びそうになる。何もない床でつまずくような感覚。
「この靴、床にくっつくよ!」
一歩進むのに田んぼの泥から長靴を引き抜くような動作で足裏を床から引きはがす。右足を一歩前に出して床につける。そこを支点にして踏ん張って左足を床からはがし、もう一歩先に置く。これを繰り返してゆっくり前進する。
「接着剤の効果かな。反転術式で超強力になったとか?」
「浮遊の魔法陣の効果が反転しているのかも」
「それだ!」
靴底と靴本体の接着面にそれぞれ浮遊の魔法陣と反転術式の魔法陣を描いて貼り合わせてある。浮遊効果が反転してくっつく効果になっているということらしい。
えっちらおっちらとしばらく歩き回っているうちにコツのようなものが分かってきた。
この付着術式(簡易的にこう呼ぶことにする)は磁石のように吸い付くのではなく、接着剤のように触れた場所が離れにくくなる効果があるようだ。だから足裏をべったり床につけると力を込めないと次の一歩が踏み出せないし、つま先だけとかかかとだけというように足裏の一部分だけを床につけると弱めの力でくっつく感じになる。うまく走ればグリップ力が調整できるスパイクシューズのような感じで、平坦な床でも強く蹴りだせるようになる。つまり、素早く動き回るのに最適ってことだ。
「これ、いいね。ボクの戦闘スタイルに合ってるよ」
反復横跳びが超高速になる感じ。
「それにっ」
だだっ、と壁に向かって走り、そのまま壁を大きな歩幅で駆け上がる。最後は天井を蹴って宙返りを打ち、きれいに床に着地。
「すごい、コウくん、壁も走れるんだ!」
できそうな気がしたのでやってみたら思いのほかうまくいった。練習すればもっと長く壁走りができそうだ。これはいい。冒険者っぽいよ。
「この靴、大発明だよ。まさにマジックアイテムだね」
「えへへー」
「ありがとう、ひより。ボク、この靴で高速戦闘のスキルを磨いてみるよ」
得意気にかかとを鳴らす。
ぼろっ。
「ありゃ?」
魔法陣の効果が切れると同時に、くっついていた靴底が半分はがれてぱかぱかの状態になる。
「あー、やっぱりちゃんと直さないとダメみたいだね」
だめじゃん、ひよりぃー。
【入手アイテム】
・ファンデルワールスの靴(修理中)
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