第11話 朝練
今日からヒコとの朝練である。
場所はダンジョン第二階層の通称『闘技場』。観覧席はないけれど楕円形の広場になっていって壁が高いところがコロシアムっぽい。天井は見上げるほど高く、竜の一頭くらいなら余裕で入れそうな広さだ。まあ、竜を見たことはないんだけどね。
「こっちだ」
ヒコの後に続いて奥のほうの壁際に進む。闘技場は複数の部活で共有していて、だいたいの
「最初はこれがいいだろう」
ヒコが示す先には、丸太を組み合わせ作った
「
「ウッド・ゴーレムの一種だ。こうやって魔力をチャージすると」
ヒコが木人の頭頂部に手を置いてステータス画面を開き、操作する。手のひらから淡い光が木人に伝わり、のっぺりした顔の目の位置が光る。
「下がって」
ヒコに促されて数歩後退する。ヒコは木人に正対し、腕ほどの長さの直剣を構えて踏み込んだ。
同時に木人が回転して左腕が襲い掛かる。
「はっ」
ヒコは袈裟懸け気味に木人の左腕に打ち付け、すぐに手首を返して水平に薙ぐ。木人の胴体をかすめながら、木人の右腕の攻撃を弾く動きになった。反動を利用して上段に構えなおした剣を木人の頭部に振り下ろす。木人は剣を避けるように上体を逸らし、その結果正面にある下段の腕がヒコの腹部を下から突き上げる攻撃になった。
ヒコが後ろに飛びのく。木人は地面に固定されているので、リーチの範囲外に出ると動作が止まるようだ。
「攻撃を避ける動きもするんだね」
「単純な動きだけど、型の練習にはちょうどいいんだよ」
しばらくすると木人の目の光が消えて動作が停止した。
「コウタは初心者だから、まずは動かない木人でやってみようか。
ナイフは叩き切るのではなく、表面を撫で切る攻撃と浅く突き刺す攻撃をイメージするといい」
切れ味を重視したナイフは剣に比べて刃が薄いものが多い。だからむやみにまっすぐ切りつけると刃こぼれしやすい。刃を相手の体に垂直にぶつけるのではなく、水平に滑らせて皮や肉を切り裂くイメージだ。一撃のダメージを狙うのではなく、相手の装甲の弱いところを切り裂いて血を流させ体力を奪う使い方が正しい。
ヒコの説明を要約するとそういうことらしい。
「それと『突き』だな。ナイフの先端はポイントと言って、刺突攻撃に向いた構造になっている。ナイフで致命傷を取るには急所を狙って突き込むのが基本だ。ただし、全力で突き込むのは
「手数で体力を奪い、確実に取れるチャンスに急所を突く。そういうことだね」
「そうだ。あとは握りだな。刃物全般に言えることだが、正しい握り方をしないと十分な威力を発揮しないし、怪我につながる。そこに注意して木人相手に練習するといい」
「わかりました、師匠!」
「だから、師匠じゃないって」
さあ、練習開始だ。
停止している木人に向かって大型ナイフを構える。まずはゆっくり振って、木人の胴体や腕の表面に刃先を滑らせるイメージで撫で斬りの練習だ。少しずつ速度を上げていって、切りつける場所も顔面や首筋、脇、腹部、腕の内側と急所をイメージして振り分ける。うん、いい感じにできてるんじゃない?
「ふっ」
ちょっと調子に乗って、心臓を一突きとばかりに真っすぐナイフを突き出したら、ガツンと手首に衝撃が来てナイフを取り落としてしまった。
「いッツツ」
思わず利き手の手首を反対の手で掴む。人差し指と中指から派手なダメージエフェクトが噴き出して動かない。薬指はもう少し軽症だけど、やはりダメージエフェクトが零れ落ちていた。
「あーあ、やっちまったな。ナイフは
「結構痛いね。あと、人差し指と中指が痺れて動かない……」
顔をしかめながら手首を返してダメージエフェクトが二本の指の全周に回っているのを見る。
「指が動かないのは切断判定になっているからだよ。止血しないとどんどん耐久値が減って
「うん、あるよ」
左手で床にステータス画面を表示させて、ストレージのポーションのアイコンにタッチする。一本飲んだだけで指は元通りになった。操作してわかったけれど、左手一本だと簡単な動作でも結構手間取る。
「ストレージは便利だけど、戦闘中だとちょっと使いにくいところがあるよな。ポーションはステータス画面を開かなくても使えるように二、三本ベルトにセットしておくといいぞ」
「了解、工夫してみるよ」
朝練一日目から収穫は大きかったな。よーし、がんばるぞ。
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