第9話 ダーツ同好会
ダーツ同好会はダンジョン第一階層の少し奥まったところにあった。心なしか通路の灯りが薄暗い。入り口は普通の部室とは違い、スイングドアになっている。軽い軋み音を立ててドアを押し開け中に入ると、一段と薄暗い部屋に数人の男がたむろしていた。テーブル席に客が二人とバーテンが一人。
全員の視線がボクに集まる。
テーブル席にいる細身の神経質そうな男の前にはトランプのカードが何枚か散らばっていてナイフが突き立っている。大柄のソフトマッチョな男が小ぶりの斧を手の平にピタピタと当てながらニヤリと嫌な笑みを浮かべた。
とりあえずヤバそうな感じの人たちとは目を合わせないようにして、カウンターに立っているバーテンダー風の衣装をまとった男性のほうへ向かうことにした。
二歩歩いたところでソフトマッチョが
「よう、坊や。それとも嬢ちゃんかな?ここはお前さんのようなガキが来る場所じゃねんだよ。ミルクを飲んだらとっとと帰ぇんな」
細身の男がひゃっひゃっひゃっとイヤな笑い声をあげる。
ロールプレイだとはわかっていても、女の子呼ばわりはカチンとくる。でも今日は教わりに来たんだ。多少のことは我慢我慢。せっかく坊や扱いされたんだから、ここは年少者役に徹して無邪気に振る舞おう。
「お兄さん、すごいね。ナイフ投げも得意?」
「ああん?」
「ナイフ投げなら、こっちのオニイサンのほうが得意だ、ぜっ!」
細身の男がテーブルに突き立ったナイフを抜き、手首のスナップだけで素早く投げる。手斧のすぐ横にスペードのエースを貫いたままのナイフが生えた。
「すごい、すごい!」
ボクがぱちぱちと拍手をすると細身の男はまんざらでもなさそうに両手を挙げた。
「調子狂うな。で、何の用だ、
「投擲のコツを教えてほしいんだ。これの」
そういって背後のベルトループからクナイを引き抜く。クイックドローは練習をしたので結構様になっているはずだ。
「おっと、その危ない得物を仕舞いな」
いっけない、切っ先を相手に向けたままクナイを突き出しちゃった。輪っかの部分に通した中指を支点にクナイをくるりと回して手のひらに仕舞うとそのままテーブルの上にコトリと置く。
「これ、ボクのサイドアームにしようと思うんだ。格闘術を身に着けるのはすぐには無理だから、まずは投擲で使っていこうと思って」
「それで
「げほっ」
大きな手で思いっきり背中をどやしつけられて思わずむせる。
「だが、タダで教えるわけにはいかんな」
ソフトマッチョ先輩が肩に手を回したままニヤリと笑う。
「ダーツの三本勝負でうちのマスターに勝ったら教えてやろう」
「負けたら?」
「うちの部員になれ。下働きとしてこき使ってやる」
「うーん、ボクもうほかの部活に入ってるからなあ」
「席を置くだけでいいから。部活の掛け持ち、OKだから。結構やってるやついるよ?」
あれ?なんだか勧誘に必死な感じ?
「うち、いま一年生いなくてさ。アットホームで楽しい部活だよ。ドリンク飲めるし」
「どうしようかなー」
「頼むよー」
「じゃあ、ダーツで負けたら考えます」
「よし。って、いつの間にか立場が逆転してないか?まあいいや、こっちこっち」
ソフトマッチョ先輩がテーブルを脇に寄せて壁の戸棚を開ける。そこには電子式のダーツボードが設えてあった。白線の手前に立つように言われる。
「"Get ready to aim and throw! Let the games begin!"」
派手な効果音とともに英語のオープニングメッセージが流れ、赤く光る得点表示が激しく点滅する。ダンジョン内で電子機器を見るのは初めてかも。世界観的にちょっと浮いた感じが否めない。
ケースに入れたダーツの矢を見せながらマスターが言った。
「どちらの矢にしますか?」
ボクには矢の良し悪しはわからない。矢羽根のカラーリングが違うだけで同じものに見える。
「じゃあ、こっちで」
適当に選んで手に取る。
「ダーツのルールはご存じですか?」
「いいえ、まったくの素人です」
「では、ポイントの数え方だけ。的の真ん中の赤い円の中に刺さると五十点、それ以外の部分は的の端に書かれた点数になります。ただし、中ほどにある輪の部分に刺さると点数は数字の三倍が加算されます。
「だいたいわかりました」
「では、あなたから先行でどうぞ」
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