第8話 トラップ・リシンダー
放課後、掃除当番を終えて魔法道具同好会の部室に行くと、ひよりが分厚い革表紙の本を片手に昨日ドロップした道具を調べていた。
「何かわかった?」
「あ、コウくん、いらっしゃい。これ、罠を解除する道具みたいだよ」
開いた本のページに解説が載っていて、現物と似たイラストが描かれている。
「トラップ・リシンダー。罠を解除するための万能ツール。罠の難易度によって消費する魔力量が異なる、か」
これはいい。シーカーを目指すボクにはぴったりの道具だよ。
「たぶんだけど、これって鍵開けにも使えると思うよ」
「そうなの?」
「うん、鍵と罠ってダンジョンだと一体になっていることが多いから」
「宝箱の鍵を不用意に解錠したらトラップが発動するっていう、あれね」
「ちょっと試してみる?」
そういってひよりが細かい彫刻がされた小箱を差し出す。
「どれどれ、こうかな……」
トラップリシンダーの一部を回転させるようにスライドすると出てくる何本かの小さな板状の部分から鍵穴に合うサイズのものを選んで小箱に差し込む。するりと鍵穴に入り込んだけれど、多少力を込めても鍵は回らない。
「何か作動とか呪文がいるのかな?」
「コウくん、それ魔力が空っぽなんじゃない?」
「あ、そうだった。魔力を使うって書いてあったっけ。でもどうやるの?」
まだダンジョンで使える魔法の類は習っていない。そっちも調べないと。
「えっとね、ステータス画面を開いて、一度ストレージに収納するんだよ」
「なるほど、ほいっと。それから?」
「あとはストレージのアイコンを触れば『チャージ』って出てくるから、それを選ぶんだよ」
教えてもらった通り順番に操作する。モノクロのアイコンがカラーに変わったのでチャージが完了したみたいだ。昨日、ダンジョンクロウラーを倒して得たエストがほとんど無くなった。この道具が金食い虫というよりは、ダンジョンクロウラーの
「できた。使うときはストレージに入れたままで『使う』を選べばいいんだね」
操作をすると、手元に魔力をチャージされたトラップリシンダーが現れる。さっきと同じように鍵穴に差し込んだら、今度は淡い光が板状の部分に流れるように発光してかすかに振動するような感触が伝わってきた。握りの部分をゆっくり時計回りに回す。今度はすんなり百八十度回ってカチリと鍵が開いた。
「やった!」
「わーい、開いたよ。これ、何が入っているかずっと気になってたんだよねー」
ひよりはのんびりしているように見えて結構ちゃっかりさんだね。
なんにせよ、罠解除ツールが手に入ったのはありがたい。ダンジョン攻略に向けて幸先のいいスタートが切れそうだよ。
小箱の中身は数枚の書付だった。何かの魔法陣のレシピのようで、ひよりは目を輝かせて調べている。
ひよりがレシピの解析に集中している間に、ボクは本日のもう一つの課題に取り組もうと思う。メインアームの大型ナイフの練習についてはヒコの協力を取り付けられた。残る課題はサイドアームの扱いの習得だ。どこか協力してくれそうな部活はないかな……
翌日、昼休みにヨギに投擲術のスキルを得意とする部活がないか尋ねた。
「うーん、投擲ってなると陸上部だけど、あそこは槍とかハンマーなんかの大物を扱うところだからなあ」
「ナイフ投げとか手裏剣とか、そういうことをやっている部活はないの?忍者部とか」
「忍者部はないねぇ。さすがに子供っぽいからなあ」
「忍びは居るよ、現代社会にも。ただ隠されているだけ」
「わっ、いきなりびっくりするなあ、もう。
「名前のほうで呼んでいいって言ってるのに。ヨギ君はシャイさんだね」
そういいながら小さなお弁当の包みを持ってすうっと教室を出ていった。
「いまのは?」
「陰陽道研究会の
ふーん、誰でも気さくに話しかけるヨギにしては珍しい。
「忍者部がないならナイフ投げの技術を持っている部活はないっていうこと?」
「あるにはあるけどね。ちょっと問題ありっていうか……」
「なんていう部?」
「ダーツ同好会」
「へー、それっぽいじゃん。何が問題なの?」
「ちょっと悪い噂があるんだよね。非合法な薬物を売買しているとかなんだとか」
「なにそれ、ダンジョン内の活動って生徒会が厳しく取り締まっているって聞いたけど」
「まああくまでも噂だし、処分されていないんだからただの作り話だとは思うんだけどね。ただ、部員たちが荒くれ者っぽいロールプレイが好きで、一人で行くのはちょっと危険かなぁと」
「じゃあ、ヨギが付き合ってよ」
「いや、オレは帰宅部だから」
……フラれてしまった。
というわけで、放課後は一人でダーツ同好会に向かう。
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