第2話 チュートリアル(1)

「ダンジョン攻略?」

「そ。あの校内のど真ん中にあるやつ。あれの攻略って、ヨギはやんないの?」

 ひよりは部室のある第一階層からはほとんど出ないらしく、ダンジョン攻略に関してはまったく参考にならないと本人から申告があった。まあ、ボクに素材集めを頼むくらいだから推して知るべしだけどね。

 そこでまずはクラスメイトから情報収集しようということになったわけ。転校生のボクの数少ない友人候補、後ろの席の過足よぎあしすすむくんだ。

「あんなの一学期で飽きてもう誰もやってないよ」

「え?ダンジョンだよ?リアルで体験できる異世界アトラクションだよ?そんなの無限に遊べると思うんだけど」

「あー、コウタは転校してきたばかりだから知らないんだろうけど。あそこはさ、第四階層までしかないんだよ」

「第四階層?」

「そ。第一階層は丸ごとセイフティエリアだから実質三階層だな。各階層はそれなりに広いけど、探索され尽くしていてどこに何があるかなんてマップに全部載ってるし」

「でも魔物モンスターはでるんだよね?」

「四種類だけね。スケルトンとコボルトとゴブリンとスライム」

「それって最弱の敵ざこじゃ……」

「だね。だから戦闘っていったってすぐに終わっちゃうし、鍛えるも何も普通の武器でブンブンやってりゃ何とかなっちゃうから工夫の余地もないしな。あ、ちなみにこの中で一番強いのはスライムだから。そこだけは要注意な」

「物理攻撃が効かないってやつ?」

「そ。でもま、物理無効ってわけじゃないし、もともとの耐久力がないからやっぱり武器をブンブン振り回してりゃ割とすぐに削れるけどな」

 ヨギはわざとらしく肩をすくめていった。

「要するにチュートリアルしかない体験版みたいなダンジョンなんだわ。探検するような奥行きはないし、ハクスラ要素もない。対人戦だって直接面が割れている相手と何度もやるってのは意外とメンタルきついんだよね。いくら無課金だっていってもエンドコンテンツのないゲームを誰が好き好んでやり込むんだよって話」

「それは……致命的だね」

「それにさ、あそこ、スマホの電波届かないんよ。地下だから」

「WiFiは……あるわけないか」

「新宿の地下街ダンジョンじゃないんだからあるわけないじゃん、そんなサービス。そもそもあそこ、電気通ってないし」

 あかん。そんな環境ではイマドキの高校生は五分と生息できないね。

 灯りは十分にあったし室温も適温だったから気づいていなかったけれど、ダンジョンは現代社会から切り離された孤島と同じ、つまり異世界ってことだ。

「せめて電気がきてればなあ。携帯ゲームを持ち寄って遊べたんだけど」

「ありがとう。参考になったよ」

「まあ、最初の一週間くらいは楽しめるから」

 生暖かいエールをもらって教室を出る。長く楽しめるかどうかはともかく、素材収集の役目は果たしたい。ボクはとりあえず初期装備をそろえるべく、ダンジョン第一階層にある購買部に向かうことにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る