12.薬



 白梅は傷に効く薬草と、精神安定作用のある薬草を混ぜて、薬を作りはじめた。


(村長に教えてもらった知識が役に立ったよ……ありがとう)


 村長はいなくなってしまっても、教えてもらったことが活きていることがとても嬉しかった。



***


 まもなく薬を作り終え、寝床の近くに戻ると、朔は先ほどと同じ姿勢で横たわっていた。

 その顔には表情が無かった。

 

「傷に効く薬だよ。変なものは入ってないから、全部飲んでね」


 白梅はそう言って、朔の上半身を起こし、口元へ薬を混ぜた白湯の入った椀を近付けた。


 朔は、少しの間躊躇っている様子だったが、意を決したように椀を受け取り、白湯を口に含んだ。

 一口飲んでから、咳をしたので、白梅も一緒に椀を押さえて、注意深く様子を見ながら、ゆっくりと慎重に傾けてやった。


 朔は、途中から苦しそうに目を閉じていた。

 そして、椀の中身を全て飲み干すなり、上半身が力なく、白梅に向かって倒れてきた。


「大丈夫?」


 白梅は慌てて朔の上半身を起こしたが、まもなく規則正しい息づかいが聞こえたので、ひとまず安心した。

 薬が効いたのか、眠ったようだ。


 白梅は、ここまで即効性のある強い薬を作った覚えはなかったので、疑問に感じた。


「あの草、そんなに強い薬草だったのかな?」

「私の身体は元来、植物の類の成分が効きやすい」


 まさか返事が帰ってくるとは思っておらず、驚いて少女の顔を見たが、先ほどと変わらず、目を瞑ったまま規則正しい寝息が聞こえている。


 どうやら、寝ながら答えているようだ。


 白梅は、混ぜた薬草のうちのどれかが、予期しない作用を働いていると推測した。

 精神安定作用のある薬草だろうか?


 白梅は、試しに一つ聞いてみた。


「今あなたに質問をしたら、答えてもらえる?」


 朔が頷いてくれたので、白梅は思いついた質問を聞くことにした。


「あなたは何歳?」

「16」


 白梅よりも二つ年上のようだ。


「どうして怪我をしていたの?」

「人間に攻撃された」


 白梅は、朔に攻撃をしたのは、先ほど村に届けた三人の人間なのだと思い至った。

 現在、人間と妖獣は不仲ではあるため、襲われることもあるのだろう。


 白梅は、ふいに早少女村の出来事を思い出して、気分が沈んだ。


「あなたの種族は何?」


 静かにそう問いかけてみるが、今度は僅かに重い空気が流れるのみで、一向に返事はなかった。


 怪訝に思い朔の顔を見ると、一筋の小さな涙の雫が、玉のように美しい頬を静かに流れて、煌めきながら滑り落ちた。


 白梅は、何か見てはいけないものを見た気がしていたたまれなくなり、これ以上質問することをやめた。

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