9.異変



 白梅は村人を弔うと、近くの大きな村から、更に先へ進んだ山の中を当てもなく彷徨った。

 そして、長い間誰も住んでいないと思われる小屋を見つけた。


 中は古びているが、まだ使えそうな寝床や調理場などが揃っていたので、必要な家具を揃えてからそこに住むことにした。


 本当は、早少女村からはあまり離れたくはなかったが、今の精神状態的に、今まで通り村で生活ができるとはとても思えなかった。



***


 実はその日、白梅は少し困っていた。

 獣体から元の姿に戻ったと思っていたが、微妙に違う姿になってしまったためだ。


 朝から村人を弔うことしか頭になかった白梅は、弔いにひと段落がついた今、この問題に直面せざるを得なかった。


 今の白梅は、身長が伸びて目線が高くなり、手は筋張り、高い声が出せなくなっている。


 池の水面に映った顔立ちは、以前とほとんど変わっていなかったが、少しだけ凛々しく引き締まっている気がした。


 そして、胸にあったそれなりの大きさのふくらみが、今は無くなっており、代わりに股の辺りに感じたことの無い異物感がある。


「なにこれ……」


 白梅は衣を脱ぎ、下半身を見下ろして……そっ閉じした。



 今まで、異性の身体などまじまじと見たことはなかったが、全く知識がないという訳ではなかった。


 というか、ここまで邪魔な大きさなものなのだろうか?

 もしかして、このブツと、代わりに無くなってしまった胸は、大きさが比例しているのだろうか?


 白梅はしばしの間、虚空を眺めた。


 通常サイズがここまで邪魔な大きさであっては、生活においてたまらないはずなので、きっと胸の大きさと連動しているのだ……と最終的に結論付けた。


 自分の身体について悶々と思案していると、ふと、目に入った太ももとふくらはぎにも、変化があることに気付く。

 体中をペタペタと触れてみると、いつもとは違う、力強い硬さを感じた。


 白梅は、先ほど走った時に、実はいつもより長く早く走れていたのかもしれないと、薄々感じていた。

 村人の弔いも、随分楽々とこなしていた気がする。


(もしかして、筋肉が増えてる……?)


 そう思い至ると、今すぐにこの場所から駆け出して、色々なことを試してみたい気持ちでいっぱいになった。


 そして、動き回る際には、きっとこの髪の毛が邪魔になるだろうと考え、手近にあった紐で一つに結いでから、外に飛び出した。


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