第11話 僕を負かした女の子
「あ、あなたが次席の方なのですね。私より代表挨拶向いてそうですね。代わってもらえます?」
「あはは、君、面白いね!」
僕に人前で挨拶させようなんて、なかなか良い度胸しているじゃないか!
ちらりと見渡せば、周りが凍りついている。この子の発言は、あちこちの方面に衝撃を与えたようだ。色んな意味でタブーな発言だったからねぇ。
「無理に決まってるじゃないか。代表挨拶は首席!これは王家でも変更出来ないって有名な話じゃないか」
「そうなんですか?」
ぱっと見の身のこなしは貴族令嬢のようだが、あまりにも王都の常識に疎すぎる。柄にもなく心配になってしまって、僕らお節介をしたくなった。つまりは、暗黙の了解もしくは公然の秘密とされている過去の王族の間抜けな悪行を、ちょっとばかし口に出してあげるってことだ。
「昔、馬鹿な王子様を賢く見せたい馬鹿な王様がいてねー、大騒動になっちゃって、それ以来は裏口裏金が一切効かなくなったんだよー」
誰もが知りながら、口にしてはいけないと思っている昔話……といっても、数代前だからまだ関係者も生きているがな。少し前の話を聞かせてやれば、少女はクスリと笑って首を傾げた。
「へぇー、物知りですね」
「王都に住んでたら誰でもしってるよ」
「へぇー、生憎と私は王都民じゃないもので」
物知りというほどでもない、と謙遜したつもりが、王都の人間ではないのか?という質問に受け取られたらしい。
「私、地方の学校からの推薦なんですよね」
「そうなんだ!地方にも賢い子っているんだねぇ!」
なんと、地方から!これまで親の付き添いで視察に出向いたことはあったが、家畜の延長線上にいそうな人間しかいなかったけれども。どんな土壌からこんな少女が自然発生するんだろうな。神様のとっておきの隠し球みたいな子じゃないか。
「親御さんが賢者だったりする?」
「へ?賢者とか神話世界だけでは?」
半分本気、半分冗談で問い掛ければ、彼女はキョトンと瞬いて首を傾げる。比喩ではなく、種族としての賢者を指していると理解してもらえて嬉しい。
「ジョークだよジョーク!」
「ジョーク分かりにくいですねぇ」
半ば呆れたような顔で苦笑されてしまった。
ジョークを笑ってもらうというのは、コミュニケーションの中でも割と難易度が高いと思う。だってそのためには、同じ知識、思考、教養レベルが必要なのだ。だから、僕のジョークはなかなか通じない。
これは実は時事ネタでもあったのだ。英雄、勇者、賢者、聖者と呼ばれる傑物たちは魂の質が一般的な人類とは違うのではと、最近の霊魂学会でも発表があったのだ。ほぼ文学とか哲学、宗教の範疇の議論だけれどね。なにせ、ここニ百年ほど英雄とかっていう人物は現れていないから、研究を進めるのが難しいのだ。まぁ、つまりは平和ってことだからありがたい話なのだが。
……って、まぁ、こんなことを語り続けても嫌がられるだろうということくらい、僕でも予想はつく。何度も経験しているからね。だから僕は、あっさりと話を切り上げて笑ってみせた。
「あはは、ごめんごめん」
僕が話を続けたそうだったのを察した彼女は、少し待つような顔をしたが、すぐに切り替えて自ら口を開いた。
「親は普通に領地をそこそこおさめてる男爵ですよ。得意なことやるのが幸せだよねって王都での学費出してもらえました」
僕が種族の特殊性と魂の質について語りたそうだったのを、彼女の背景についてより深く詮索したがっていたと思ったのか、金髪の少女は肩をすくめて自己紹介を続けてくれた。
「へぇー!素敵な親御さんだね」
「ありがとうございます。代わりにお前の持参金はないって言われましたけど」
「あはははは!ジョークも分かるんだ、すごい!」
「冗談じゃないんですけどねー」
娘に持参金はないからな、なんて面白いジョークだと思ったが、少女は半笑いで肩をすくめた。
「ここの学費、寮も含めてとはいえ、田舎貴族の持参金くらい高いんですよ」
僕の周りには金に不自由しない者たちしかいなかったから知らなかったが、学園というのは金が必要な場所だったのだ。
いっそ優秀で奨学生として推薦された平民であれば全額補助が出るが、貴族にはそれがない。
親御さんは大変な決断をしたのだと、僕は後に彼らの財政状況を調べて理解した。
「君のご両親はご立派な方なんだねぇ」
「普通の男爵夫婦ですってば」
何度か僕は本心からそう告げたが、彼女はいつも妙な顔をして首を振った。
「あはは、
「コーリー様が言うと、一周回って本気っぽいのが面白いですね」
「面白い?それは良かった」
「褒めてないですよ?」
この美しく賢く勇敢で肝の据わった、最強で最高の少女は、カミラと名乗った。
本当に実家は平凡な男爵家で、今の男爵も善良さと真面目さだけが売りの、大した面白みのない男である。その妻もまた、田舎の女性らしく堅実で欲の少ない平凡な者のようだ。カミラの姉妹もまた、同様に凡庸な者たちだった。
けれど彼らは同時に、非凡でもある。
飛び抜けて優秀で、圧倒的に有能で、世が世ならば賢者か勇者として選ばれてもおかしくない、明らかに
なんの躊躇いも疑いも、恐れも怯えもなく、忌避も嫌悪もなく、ただ純粋な愛情と親愛だけを胸に湛えて。
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