第5話 魔法少女年金が生まれた訳
今月分の〝年金〟を貰ってほくほく顔のわたしをバロンがジッと見つめる。それこそ穴が開くほど熱い視線で見てくるものだから、ついつい「なによ?」と言葉尻が険しくなる。
「いや、別に」
興味無さそうなポーズを取るが、視線は茶封筒をロックオン、これ以上ないくらいガン見しているでしょう。
「珍しくも何ともないでしょう? わたしがアテナさまから年金を受け取るの」
「そうね。洋子ちゃんが〝魔法少女〟を定年になってから支給しているから、かれこれ5年になるかしら」
アテナさまも「毎月のことだものね」と補足する。
年金と魔法少女。
まるで関連性のないワードだと、バロンみたいに首を傾げた底のアナタに問おう! 〝魔法少女がなぜ闇と戦うことができたのか?〟
平和を願う心?:あるけど、それだけだと心が折れちゃうわ。
仲間との友情?:それが何の役に立つの?
格好いいから?:わたしは厨二病患者か!
答えはギブアンドテイク、魔法少女を止めた後のご褒美があったからよ。
「Z世代も大概だったけど、洋子ちゃんたちの世代はホント勧誘が大変だったわ」
あの頃を思い出すようにアテナさまがしみじみと語る。
闇の侵攻は過去幾度となく行われており、その度々ごとにこの世界の神の一人であるアテナさまは、迫りくる闇に対抗すべく魔法少女を募っていたのだとか。
「昔は良かったわ~。私が両手を握って「平和のために力を貸して!」って言えば、皆二つ返事で魔法少女に志願してくれたものよ」
そう言って「例えば」と掲げた名前にはわたしでも知っているレジェンド級の魔法少女が次々と。さすがにこれには「へー」とバロンも驚きの声。
「そんな昔から……まるでスーパー〇隊やプリ〇ュアみたいな系譜だね」
それ版権があるから言っちゃダメ!
「それがミレニアム世代くらいから「なぜ私が?」ってごねるヤツが現れて、Z世代には完全に崩壊よ」
その頃を思い出すようにアテナさまが頭をかきむしるが、皆がごねる気持ちはよく分かる。
「命に関わる危険な仕事なところにもってきて、授業中だろうがお風呂の中だろうが呼びつけられるんだもの。名誉や情熱だけでは割に合わないわ」
「そう、そう。そんなことを言う子ばかりになったのよ」
苦々し気に顔をしかめる。
何でも一時は〝警察官募集〟か〝自衛隊員募集〟のポスターと並べて〝魔法少女募集〟も貼ろうかと検討したとか? まあムダだから、やらなくて良かったと思うわよ。
で、一向になり手が現れない現実に、アテネさまたち神様は頭を抱えてたそうな。
ところが!
「そんな折よ。ふとした切っ掛けで〝企業戦士〟と名乗るヒトから「もうじき年金がもらえるから、キツイ仕事も頑張れる」という言葉を聞いて「コレだ!」と閃いたのよ」
「それ、ゼッタイ昭和生まれの〝社畜〟だ」
「そこの妖精、いちいちウルサイ。とにもかくにも、私はその企業戦士とコミュニ―ケーションを取り、年金なるシステムを訊き出したのよ」
コミュニケーションの一環で、大衆酒場で酌をするアテナさまを想像したけど、わたし悪くないわよね? なぜか睨み付けられたけど。
「で。Z世代が歯牙にもかけなかったから、洋子たちを〝退職後の年金あり〟をエサに釣ったんだ」
得心したようにバロンがポンと手を叩く。
「言いかたー」
当っているけれど、少しはオブラートに包みなさいよ。アテナさまも「その通り」なんて嬉しそうに肯定しないで。
そして何かに気付いたのか「そういうことか」とバロンがポンと手を叩く。
「え、どういうこと?」
何が分かったのかバロンに尋ねると「その、茶封筒の意味」と再びわたしが手にする封筒を指差す。
「情報源が〝サ〇さん〟に出てくる〝波〇〟さんみたいな人だから、銀行振り込みじゃなく手渡しだったんだ」
「えっ? 年金って〝現金を手渡し〟じゃなくても良かったの?」
いつの時代の話よ。
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