本戦-11 死超勢


「イェァァァァ!!」


 ギャキギャキギャキギャキキィ──!!


>今日も酒がうまい

>サイバーの酒マズくね?

>味だけ楽しめばそんなに


 鏡の悪魔が吐き出した弾らは月の支配者の纏う棘によって弾かれる。散る火花は風物詩。サイバー世界のトレンドは多段攻撃とスリップダメージ。気焔万丈と狩人達は狂い奮い続けている。


「ふふっ、楽しい?」


 1.5秒間隔で飛んでくるツーマガジン掃射。全弾ヒット=即死超過な9mmのシャワー。制御されたリコイルは貪欲に命を狙う猟犬となって全方位から喰らいつく。


>外野から見てる分には

>射線に入ると死ぬゾ

>守りに徹してもダメって強すぎんか

>オレらには使えないけどナ!

>発射レート高すぎるねんな

 

「バレっちに顔面アウト叩き込めたら文句なしかなァーッ!!」


 足から火を吹いて2段ジャンプ。燃やされ続けるHPは最早万能燃料。火力にも機動にも使える超便利リソース。ただし切れたらクラッシュ確定。なのに再生Iからの供給は追いついてない。尽きぬ源泉があろうと、蛇口が小さければバケツを満たすには時間がかかるのと同じ。


>顔面防ぎにくいのにダメージ大きいのやめてくれよ

>部位破壊ダメージすこ

>だからって目鼻口耳etc部位を詰めるのはおかしいと思うのよ


「く、ぅっ──しゃぁぁぃるぁぁっ!」


 多少の被弾は受け入れ正面突破。全て防ぐよりはちょっと受けて逃げた方が楽。急がば突っ切れとはまさにこのこと。前傾姿勢になってオファニエル大回転、別名飛鳥文化アタック。攻防一体の伝統的な移動技はここでも威力を発揮した。


>おおっとー!三半規管虐待だー!

>おじさんには無理です

>元気だなぁ……

 

「ほんっとデタラメ…!」


>オマエモナー

>プロゲーマーの変態度って時代を経ることに上がってる

>それオリンピックの前で言えんの?


 バレッティーナはリロードしながら横ステップ。火の輪を見送って靴先で着地、同時にクルッと回転。照準は横腹に。


「コレでもダメ」


 だけどシェリーだってオファニエルが石畳に突き刺さった瞬間逃走を選択した。突撃攻撃は反応攻撃に弱いことをよく理解している。最適解は通りすがりの交通事故だ。轢き逃げ上等、足をついてヘアピンターンを──


 ダババババハァーッ!


「ンォァ!?」


>お視点戻った

>二分割になった

>おかえり俺

>ただいま俺

>分離ニキ…認識まで分けなくても…

>視聴者も変態多くない?


 ──というところで現れた黒雲。狙ったように突き刺さる雷霆。シェリーは見事に事故って顔面から地面を擦った。クソ痛いヤツ。


「たのしゃあことやっとぉね?」


 ワザとらしく靴音鳴らし、機嫌良く手を振って黒雲を従えるレファがバレッティーナの横に並ぶ。


「なるほど2on1ってワケ……」


 とりあえずシェリーは顔面セーフ。ギリギリの所でアクト・グラディアトルを装備したお陰で放送事故は免れた。美少女の鼻血に価値は無い……え?あるの?


「私一人で十分だった」


 対してバレッティーナは少し不機嫌。腕前が『互角』すぎて拮抗する喧嘩に水を刺されて少し苛立ち。けれど構わずレファは笑いながら口を回す。


「ウチぉ仲間はずぇなんてさびしゅぅよバーレーピっ♪シェリちゃんと戦いたぁのウチもなぁよ?しかぁもアリサちゃ見当たらぁで悲しみ…」


「……邪魔したからには勝ってよ」


>ここツンデレ

>バレ様の貴重なデレ成分

>チョコくらい甘い

>何チョコかによるな……


「とぉーぜんよバレピ☆負けぇ気しなぁにきまっとぉーっ!」


>ハイタッチよき

>ここバトンタッチ

>殺す前は楽しい方がいいからね

>こっちは堪ったものじゃないが?


 その掛け合いの裏。シェリーはひっそりと息を潜め、スタミナ回復に専念。再生の齎すHPの恵みも享受。走者はボーナスタイムにも余念がない。


「……って訳で決着はお預けだってさ。だから──」


 だがそんな幸せはすぐに過ぎ去る。向けられるは無数の銃口。生まれた空白に危の一文字が浮かぶ。無意識に身体は生存を求め手甲に気力スタミナが回る。


「ブロックロッ『『縺ゅ◆縺励?縺九■縺? 縺ゅ≠縺ゅ≠縺!!!!!』』うるせぇぇぇー!!!」


「──っる……!」「ぃぃ〜〜っ!?」


>ついに聞き取れなくなった

>鼓膜か逝ったかと思ったよ

>逝ってるのはアリサの声帯定期

>リアル化け物なんか?

>シェリーはバケモントレーナーだった…?


 ある種耐性の付いているシェリーは軽度。しかしバレッティーナは爆音波の余波に怯み、レファに至っては持ち前の過敏とも称せる五感が吹っ飛んで膝を突く。さらに加えて。


『『yEEEE──Ahhhh!!!!』』


 文字通り、死を超越した制圧者のエントリー。建物を粉砕し現れた彼女から流れ出る血は、紅き霧となってサードムーンに纏わり着いている。命を刈り取るような悍ましき肉の怪物を目の当たりにした英雄と視聴者はSAN値チェック1d3/1d10。


>あ"

>(このコメントは削除されました)

>ふーん、えっちじゃん

>えぇ…


「はい私の勝利確ェェェ!!!」


 奮起するオファニエルDX。ぶん回る戒天の輪。狂気は感染した。情熱機関にブチ込まれた揮発性の感情はおどろおっどろしい昏き焔をぶち撒けさせた。


>きもちわるい

>テンション上がってきた

>吸血鬼の方ですか?


「ほんっと……なんなのアレ?」


 バレッティーナはまだ戦える。一息入れて復調。崩れたリズムはガンスピンで再生。クソ長いスキルのCTももう少しで空けてくれるだろう。


>知らん……こわ…

>お前らの幼馴染だろ、早くなんとかしろよ

>思考放棄したくなるのわかる


「──ぁ"ぃ"……ぅ"っ"……」


>!?

>ふふ…

>下品だからそれ以上打つな


 けれどレファは今の一撃でノックアウトか。混乱、畏怖、なによりもプレイヤーごと麻痺スタンを喰らってはどうにも覆せない。


「嘘でしょ──!?」


 さっきまでの威勢が吹っ飛んだ仲間を横目にミラーラミ掃射。咆哮モーション未だ終わらぬアリサにブッパ。一瞬で逆転した1on2の盤面をひっくり返したい。けれど。


『『Jaaaaaaaan!!!』』


 攻撃こそ最大の防御という言葉はあるが、それは攻撃そのもの。纏う死を刀身に湛えて振るえば、血によって拡張された刃が弾丸を真っ二つに。目が見えなくても、そこにあるなら殺ればいい。


>怖い

>本当にプレイヤー?

>プレイヤーなはず…

>ゾンビ映画のクソデカタイタン君よりひどい見た目

>サイズ小さいのにね…


「ああ、もう…!」


 迫りくる狂った三日月。鏡の悪魔は前に踏み出し、自分からインファイトに持ち込んだ。当然のようにやって来る斬り返し。けれどリロードは既に終えている。


「ガラ空き」


 バレッティーナの姿が再び消えて『一歩先』──アリサの背後に再出現。クルッとターン、感知から一時でも外れた暗殺者モドキをすぐに追うことはできない。笑うトリガーハッピー。


>口角上がってるの可愛すぎるだろ…

>バレ様最近可愛い

>吹っ切れた?


「ワンダウン」


 ダタララララァァッ!!


 心臓、脳髄、肘膝そして脊椎を撃ち抜いて塵に返す。カニバルヒールを使う暇も与えない。死がダメなら消し飛ばすのみ。


「隙だァァァァッッ!!」


>1F調整余裕とか言いやがる変態だ 面構えが違う

>フレーム技を常識のように言わないで欲しい

>見てからカウンタースキル余裕でした

>練習全成功なのに本番でガバって記録フイにしてたね…


 だがそれで止められたのは一人。狂っているのはもう一人。相棒がポリゴン片となって召されている横を、シェリーは安全度外視で突っ切っていく。折角回復したHPも情熱機関の余波で削れるが問題ない。とにかく倒せれば良い。


「ろぉ、くぶろ──っ!」


 対してふらり立ち上がったレファ。飄々とした調子は崩れ、腕輪の填まった片腕を突き出し岩の装甲を生成。先程の終打を防いだ[ロック・ブロッカー]。だがオファニエルにとってソレは紙よりも脆い。


「シャァいらぁぁっはぁぁんっ!!」


 カ──ギィヂャヂャヂャヂャァァンン!!


 "一回限り"の無効化シールドは脆く崩れ去る。断末魔さえもかき消す排焔と加工の騒音。ここは工場地帯か馬鹿者が。どうして人間というものはこんなにも闘争を求めてしまうのか。


>レファたその顔引き攣ってましたね

>そりゃそうよ

>俺はもう無心でツマミを口に運んでる

>食ってないと狂いそう


「あぁ……オファニエんの超気持ちいい……!!」


「…結局二人に戻るんだ」


 二人は建屋の吹き飛んだ街並みでそう叫んだ溢した。どうやら決戦のバトルフィールドには……何もないスーパーフラットがお似合いらしい。


>仲間いなくなっちゃったね

>コレどうすんの?

>ウーン……

>もう地形ボッコボコや

>アリサ一人で物損被害が半端じゃねえ


 殺意というシンプルなものをぶつけ合う行為に、過度な装飾は必要ないから。


〜〜〜

Tips 出す場面見失ったのでここでバレっちの装備紹介


──

[ハインディング・シャドウ]

カテゴリ:全身装備(魔核武装)

属性:闇

効果:隠密効果(中)、行動加速(中)

スキル:ダイビングブラッド・加速

──

[ダイビングステップ・加速]

スタミナを消費して短距離転移する。移動距離はスタミナの追加消費量に応じて延長される。

CT:30秒

──



加速が無いバージョンだとスタミナ消費量の延長がないです

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る